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羽生-木村戦の終局後に注目した「両者の肩」

 夕食休憩後は、まあいろいろあって、早めの時間に渡辺三冠の勝ちで終局した。糸谷さんは「夕食休憩前はやれるのかなと思ってたけど、休憩明けには自信がなくなっていた」という。

 我々がエレベーターで見た糸谷さんは、まだ前者だったと思う。同じ人が同じ局面を見ているのに、時間の経過によって見方が変わっていく。評価値だなんだと言うけれど、人間が指している将棋はどこまで行っても人間のものなのだ。

現在は棋士会副会長を務め、ファンからは「ダニー」の愛称で親しまれている糸谷哲郎八段 ©︎文藝春秋

 午後10時過ぎに自分のところの感想戦が終わり、ようやく余裕を持って他の4局を見られる体と頭になった。1局ずつ進行を確認して、状況を把握していく。

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 羽生-木村戦は羽生九段の名局だった。感想戦を見るために対局室に入ると、すぐに両者の肩に目が行った。羽生さんはこれまで見たことがないくらいのなで肩、木村さんは気持ちの強張りがそのまま続いているような怒り肩だった。

東京の我々も誇張なしに飛び上がった

 日付が変わった控室では、鈴木大介九段を中心に関西の久保-三浦戦の検討が続いていた。稲葉八段が勝った瞬間に久保九段のA級陥落は決まっていたのだが、とにかく面白い終盤戦で目が離せない。

 鈴木九段は「明日も朝早いし、2月は休みがない。なぜ私は将棋を見ているんでしょうねー。ハハハハハッ」とぼやきながら、目を輝かせて継ぎ盤に向かっている。付き合っている高見泰地七段や斎藤明日斗四段よりも若手感が強いのだから、恐ろしい限りである。

 手が進むにつれて、検討の結論は三浦勝ちに傾きつつあった。鈴木九段が「いやー、やっと帰れそうです!」と叫んだ次の瞬間に、「うそー」と声が上がった。モバイル中継のコメント欄に、驚くべき内容が書かれていたのだ。

「うわぁ!」(今泉四段)

 

 久保は水を飲んだ。後手玉は詰みだと見られている。

 

「どひゃあ」(星野四段)

 大阪の棋士室はすごいことになっていただろう。東京の我々も誇張なしに飛び上がった。

 早めに家に帰ってひとりで中継を見ていたら、こんな興奮は共有できなかったと思う。それにしてもすごい将棋だった。