私は流行に乗るのが得意ではない。みんなと同じことを同じような考えのもとにやろうとしても、すぐに落ちこぼれてしまうのが関の山だからである。

 肥沃な土地は大多数に任せ、自分は湿っぽい木の陰で思うように不思議なキノコを作る。そのような隙間産業的なやりかたで生きてきた自負はある。

 そんな私もとうとう、流行のうずに巻き込まれてしまった。不本意ではあるが、こうなってしまったからには無駄な抵抗をしても仕方ない。流れに身を任せて、他日を期するよりないであろう。

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(訳:風邪をひき、布団にくるまって過ごす日々。来週こそ必ず現場に行くことであろう)

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1月19日、日曜日。

 NHK杯戦の▲広瀬章人八段-△稲葉陽八段戦は、まだまだ流行が続く角換わり腰掛け銀だった。棋譜はこちら(https://www.nhk.or.jp/goshogi/shogi/score.html?d=20200119)。

 攻める広瀬、しのぐ稲葉という展開から、最後は一瞬のスキを見逃さずに寄せ形を築いた稲葉八段の勝ち。

 寄りそうで寄らない中段玉は、穴熊よりも手ごわいことがある。早指しならば尚更である。

 本局の観戦記は上地隆蔵さんが担当した。届いた原稿には、上地さんが稲葉八段に後日取材したことにより明らかになった、実に恐ろしい変化が記されていた。

 詳しくは2月半ばに発売されるテキスト「NHK将棋講座」3月号にて。

イパネマ海岸で花火を見ながら年越し

 午後、翌日が締め切りになっている棋王戦挑戦者決定戦第2局の仕上げに取り掛かる。

 新聞観戦記は分量の縛りが厳しいため、何を書いて何を書かないかの判断が非常に難しい。書ききれなかったこと、いわば積み残しが出てしまうのは惜しいが、これらは「いつか」への布石になると信じるしかないだろう。

 そうは言っても、表に出さないのはもったいないので少しだけ。対局翌日に南米旅行に飛び立った佐々木大地五段は、イパネマ海岸で花火を見ながら年を越し、ファベーラ(どんな場所かは各自調査のこと)にも行って現地の人に髪を切ってもらったそうだ。

ブラジル・リオデジャネイロのイパネマ海岸 ©iStock.com

 何事もなくてよかったと安心すると同時に、耳学問だけでは得られない体験ができて、うらやましいなと思った。