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連載春日太一の木曜邦画劇場

いつの時代も実直で武骨藤岡弘、が魅せた殺人者役!

『野獣死すべし 復讐のメカニック』

2016/03/15
note
1974年作品(86分)
東宝
2500円(税抜)
レンタルなし

 藤岡弘、が大活躍だ。大河ドラマ『真田丸』で演じる武将・本多忠勝の武辺者ぶりが評判なところにもってきて、今月は代表作ともいえる『仮面ライダー1号』も時を経ての劇場版の公開が控えている。

 いかにも素朴で実直で人が良さそうな佇まい、ここ一番で見せる殺気は五十年近く色あせることなく、軽さや薄さが尊ばれる現代では時代遅れと思える時もある。だが、その武骨さがかえって正義のヒーローや荒武者といった浮世離れした役柄にはピッタリとハマることになり、役者としての稀有な価値を与えている。

 そんな藤岡が「知的な悪」に挑戦したことがある。それが今回取り上げる『野獣死すべし 復讐のメカニック』だ。

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 仲代達矢や松田優作も演じてきたクールなダークヒーロー・伊達邦彦を藤岡が演じた。

 射撃の名手で普段は大学講師をしている伊達は高校時代に家族を失っていた。会社を乗っ取っては事業を拡大していく矢島(小松方正)により全てを奪われたためだ。伊達は矢島と、矢島に協力して乗っ取りに関わった全ての者たちへの復讐を開始していく。

 ターゲットになった者の多くは既に悪事から手を引き、家族と平和に暮らしている。だが、伊達は容赦なく彼らを始末していく。

 物語冒頭から、電車から突き落としての轢死、殴り倒した上で車で轢(ひ)き殺す、家族と電話で談笑しているところを射殺……と、強烈な殺人シーンが続く。そして、殺しをする際に藤岡は感情を全く表に出さない。わずかに一度だけ笑みを見せるのは、銃を構えた時。ここでの眼差しは、ゾッとするほどに冷たかった。

 中でも印象的なのは物語終盤、銀行頭取(加藤嘉)を殺す場面だ。伊達は頭取の娘を誘拐、身代金として頭取に五億円を雪山まで持ってこさせる。そして、心臓の弱い頭取をケースを持ったまま歩かせ、苦しんで倒れては引き起こし、その挙句に、娘が暴行を加えられて死んでいく様の録音を聞かせて悶死させるのだ。

 藤岡は本作でもどこか実直な善人の武骨さが見え隠れしていた。そのため、仲代や松田のようなクールなカッコよさはほとんど感じられない。だが「悪の魅力」が薄れたことで、善人に見える男が容赦なく理不尽な殺人を淡々と遂行する暴力の残虐性がストレートに飛び込んできて、シリアルキラー的な恐怖が見る側に突きつけられることになった。復讐の背景となる事情についてあまり説明がなされていないことも手伝い、伊達にとって復讐はただの口実で、殺人という行為そのものを楽しんでいるようにさえ映る。

 武骨な男・藤岡だからこその殺人鬼ぶりに震える作品だ。

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