『宿命と真実の炎』(貫井徳郎 著)

 小説の続篇が出るのは、大抵の場合、第一作の主人公のキャラクターが際立っていたから。二〇一〇年に第二三回山本周五郎賞を受賞した著者の代表作『後悔と真実の色』の続篇に当たる本書も例外ではない。

 前作は《指蒐集家》事件と呼ばれる連続猟奇殺人事件の捜査を描いた警察小説で、警視庁捜査一課九係が捜査に当たった。その九係でも卓抜した推理で名探偵の異名を取るのが西條輝司で、彼の活躍で事件も解決されるのだが、その際彼は「警視庁の威信を傷つけるスキャンダルで失脚し、警察を追われ」ることに。

 西條と九係の面々は皆、個性的。シリーズ化するのに充分値するが、肝心の主役が脱落してしまっては続篇が成り立たないではないか! 著者自ら続篇のハードルを上げてしまったというか、実際著者は本書を書くに当たって雑誌連載の後、新たな構想で頭から書き直すことになったらしいが、なるほどその苦労がしのばれる出来映えだ。

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 今回描かれるのは“警察官連続殺人事件”。冒頭から白バイ警官が殺され、誠也とレイというカップルの仕業であることも明かされる。だがその素性や動機は伏される。程なく九係も捜査に駆り出されるが、そこで西條の代わりを務めるのが、所轄の高城理那だ。

 彼女のキャラは「陰でブス呼ばわりされている」アラサー女刑事。家が裕福で二枚目の西條とは対照的な地味キャラだが、彼女もまた捜査に情熱的な名探偵であり、女性差別をしない九係・村越警部補の協力を得て真相に迫っていく。

 一方、西條はエリートの兄に再就職話を持ちかけられるが、それとは別に、知り合いの古書店主の相談に乗ったことから再生の道が見えてくる。彼は図らずも探偵役を務めることになるが、読書好きの諸氏はふたりの交わす小説談義にもご注目で、彼の再生譚の方も興味深い仕上がりになっている。第一作をただ受け継ぐだけではない、誠に手の込んだ続篇というべきか。

ぬくいとくろう/1968年東京都生まれ。93年『慟哭』でデビューし、一躍話題に。2010年『乱反射』で日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で山本周五郎賞を受賞。『愚行録』『私に似た人』『壁の男』など著書多数。

かやまふみろう/1955年栃木県生まれ。コラムニスト、書評家。著書に『日本ミステリー最前線』などがある。

宿命と真実の炎

貫井 徳郎(著)

幻冬舎
2017年5月11日 発売

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