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人のことはそんな簡単に理解できない。最後まで読んだらわかってもらえると思う──貫井徳郎(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/10/29

genre : エンタメ, 読書

note

貫井徳郎(ぬくい・とくろう)

1993年、鮎川哲也賞最終候補作『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で山本周五郎賞を受賞。『プリズム』、『神のふたつの貌』、『新月譚』、『私に似た人』など著書多数。2017年には『愚行録』が妻夫木聡主演で映画化される。待望の最新刊は『壁の男』。

「『蜩ノ記』の現代版をやりたい」と編集者に話した

壁の男

貫井 徳郎(著)

文藝春秋
2016年10月28日 発売

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――最新作『壁の男』(2016年文藝春秋刊)は、北関東のある集落じゅうの家々の壁に絵を描き、今やその景観がネットで評判を呼んでいる一人の物静かな男、伊苅の物語です。稚拙なその絵がなぜ受け入れられたのか、そもそも画家でもない伊苅がなぜ絵を描き始めたのか。少しずつ彼の人生の真実が明かされ、最後には鈍器で殴られるように、ずしんとくるものがありました。どのようにしてこの物語が生まれたのかな、と。

貫井 きっかけはいくつかありました。担当者と次はどんな話を書きたいかと話していた時に、「葉室麟さんの『蜩ノ記』の現代版をやりたい」と言いました。理不尽な運命に耐えて最後に爆発する、というタイプの話を。

――そうなんですか。『蜩ノ記』は葉室麟さんの直木賞受賞作ですよね。10年後の切腹を命じられて幽閉状態にある男を監視する青年が、男の誠実な人柄に感銘を受けるという。いやあ、その影響を受けているとは気づかなかったです。

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貫井 あまりにも違いますよね(笑)。でも、町中に絵を描いたのは、伊苅にとっての最後の爆発なんです。

 それと、4年前に書いた『新月譚』(12年刊/のち文春文庫)が、才能があるのに愛を選んで創作を捨て、でもその愛が得られずに終わる女性作家の話だったんです。それで、今回は才能がないのに愚直にやり続ける男の話にしました。そのほうが読者も読んで共感しやすいかなと思ったんです。

新月譚 (文春文庫)

貫井 徳郎(著)

文藝春秋
2015年6月10日 発売

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