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猟師たちの間では、山に入る時は食料として唐揚げや天ぷらは持って行ってはいけないと信じられている。持参するとよいのはニンニク。胸のポケットに生のニンニクを入れておくのだと――。
怪談を語る「マタギ」たちとは誰か
ここに出てくる猟師は、熊などの大型獣を狩る「マタギ」と呼ばれる伝説の集団である。
マタギが生まれたのは平安時代とも鎌倉時代とも言われ、発祥の地として知られるのが、秋田県北部の山奥に入った阿仁町(現・北秋田市)。1年のうち5カ月を深い雪に閉ざされ、隔絶された阿仁町には3つのマタギ集落があり、戦前までは数百人のマタギがいた。
マタギが狙う1つが熊の胆(い=胆嚢)。乾燥させた熊の胆は4分の1ほどの大きさになり、これを煎じて飲むと、胃腸病・食中毒・疲労回復など万病に効く。漢方薬の最高級品だ。
厳しい冬山で熊を追うマタギは、常に死と向き合っていた。怪異体験も数多く、そのため山神信仰に篤くなり、「山は山神様が支配するところであり、クマは山神様からの授かり物」というアニミズム(自然崇拝)を信じてきた。
(秋田県公式サイト「孤高の民・マタギ」より)
怪異が「見える人と見えない人」がいる
続いて「見える人と見えない人」。
山に入ると、“怪異”が見える人と見えない人がいる。
ある時、5人のマタギが一列になって猟場に向かっていると、中の1人が、誰かに引っ張られる。「誰だ?」と振り向いても誰もいないし、後ろを歩いているマタギには見えない。
何回も引っ張られたマタギは、従兄弟(マタギ)の体験を思い出した。