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 従兄弟が他のマタギと共に一列になって歩いている時、目の前に1人の女が見え、「また来た」と漏らした。「来たって、何が?」と他のマタギが聞く。「前さから来るあの女の人な 昨日もここですれ違ったんだわ」。仲間は「誰もいねでねえか」と不思議がる。近付くと女は消えてしまった。従兄弟に見えたその女はきれいだった。そして、なぜか手に「編み機」を持っていた……。

©️五十嵐晃/田中康弘/リイド社

マタギがウサギ狩りに出かけたら

 もう1つ「白銀の怪物」。

 ある冬、マタギたちがウサギ狩りへ出かけた。熊の「巻き狩り」と同様に、勢子が下からウサギを追い、上で待ち構える撃ち手が仕留める。

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 雪が止んで穏やかに晴れ、撃ち手の眼前には白銀の世界が静かに広がっていた。

 ふと、撃ち手が下方を見ると、巨大な獣がはいつくばって威嚇している。あまりの大きさに震え、ゆっくりと後ずさり、仲間のところへ走って逃げた。

©️五十嵐晃/田中康弘/リイド社

「とんでもない化け物がいた! 退治しないと大変なことになる。無線で連絡しろ!」

 しかし仲間は誰も信じてくれず、悔しくて、このことは誰にも話さなくなった。

 昔の話ではなく、20数年前の出来事である。

ヒットの秘訣は山人が実名で語る迫真性

 原作がヒットした理由は、世の怪談ブームの後押しを受けつつ、マタギなど山人と長年交流のある著者により、山人が実名で体験を語る迫真性にあるという。

 『山怪 壱 阿仁マタギの山』で初めて漫画を描いた水墨画家の五十嵐晃氏はこう話す。

「日本人には、自然のものにはすべて神が宿っているという八百万の神の思想があり、自然に対する畏怖がありました。とくに山の中には、人間の目には見えず、計り知れないものがある。現代では消えてしまったかもしれないものに、想像力を巡らせて欲しい」

 第2弾は今夏発売予定という。