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綾野剛、松田龍平が共演 大友啓史監督が語る「なぜ小説『影裏』を映画化したいと考えたのか」

大友啓史(映画監督)――クローズアップ

note

「実は原作小説を、芥川賞を受賞する前、雑誌『文學界』に掲載されていた時点で、読んでいたんです」

 こう語るのは、2月14日公開の映画『影裏』(原作:沼田真佑)の監督を務める大友啓史さん。NHKで朝ドラ「ちゅらさん」や大河ドラマ「龍馬伝」などの演出を手掛けたのち、『ハゲタカ』(09年)で映画監督デビュー。11年に独立し、『るろうに剣心』シリーズなど、話題作を多数手がけている。

大友啓史監督

「僕、本屋巡りが好きなんです。ロケハンや撮影で、地方も含めてあちこちに行くことが多いのですが、本の並びって書店によって全然違う。お店の個性が出るものです。どこの本屋かは忘れたのですが、『影裏』が文學界新人賞を受賞した時の『文學界』が平積みで、目立つところに置いてあった。文芸誌は好きでよく読むのですが、棚差しされていることが多いから、珍しいなと。それで漢字2文字のタイトルがパッと目に入ってきた。じっくり読んでみたら、簡潔で美しい文章で、説明されていない登場人物の感情が行間に潜んでいるような、不思議な余韻が残る小説でした。その潔さに、なんだかじわじわ惹かれました。

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 プロデューサーに、こういう小説って映画化は難しいかな、と聞いたら、地味だから難しいでしょう、と(笑)。ところが、その後なんと芥川賞を受賞して。ネットを検索してみたら、ヒット数がドーンと増えていた。もしかしたらいけるんじゃないかと思っていた時に、開局50周年事業を一緒にやりましょう、と声をかけてくれていたテレビ岩手さんが『影裏』、やりませんか、と。もう渡りに船で、トントンと決まったんです」

『影裏』の舞台は岩手県の盛岡市。会社の転勤をきっかけに移り住んできた今野(綾野剛)は、同い年の同僚・日浅(松田龍平)と出会う。酒を酌み交わし、共に釣りに行き、遅れてやってきたかのような青春時代を味わう今野。しかしある日突然、日浅は姿を消してしまう。半年後、日浅はふらりと姿を現し、以前のような心地よい時間を過ごす。だが、またしても日浅は姿を消し、盛岡は震災に襲われる。同僚の西山(筒井真理子)に、「日浅が死んでしまったかもしれない」と告げられた今野は、その足跡をたどり始める。

「もともと、綾野くんと松田くんと久々に仕事をしたい、という思いがあったんですが、小説を読み進めるうちに、この2人の顔が自然に浮かんできて、他の人が考えられなくなってしまった。すごくシンプルな思いでした。どちらがどちらの役を演じるのか、というのは、実は入れ替わり立ち替わり検討していて(笑)。逆でも面白いよね、と。今野と日浅は、お互いに光と影であり、表と裏であり、世界に2人きり、という関係性。そのどちらかが欠けた時にどうするの? 本当にいなくなったの? というところを描いています。日浅という存在が何だったのか、僕の中では答えは決まっているけれど、観る人の解釈に委ねたいと思っています。そこも、原作を踏襲しているんです」

 自身、盛岡出身だが、それはあまり重要ではないという。

「もう、盛岡を出てからの人生の方が長いですから。心境としては、今野に近い距離感ですね。その距離感でなら、あの震災に正直に向き合えるかな、というところもありました。今野という人間は孤独かもしれないけれど、見知らぬ土地で、初めて自由を噛みしめながら生きようとしている。そこで地元育ちの日浅と出会って、青春を取り戻すことができたし、彼を通して土地に馴染んでいくことができた。そして今野は、『この土地で生きていく』と決意する。日浅が生きているのか死んでいるのか、ということよりも、不在を通して、逆に大切な人の実在を、深く確信する。その過程を丁寧に描くことが、一番こだわったことですね」

おおともけいし/1966年岩手県生まれ。主な監督作に『ハゲタカ』、『るろうに剣心』シリーズ、『プラチナデータ』、『3月のライオン』、『億男』など。

INFORMATION

映画『影裏』
https://eiri-movie.com/

影裏 (文春文庫)

沼田 真佑

文藝春秋

2019年9月3日 発売

綾野剛、松田龍平が共演 大友啓史監督が語る「なぜ小説『影裏』を映画化したいと考えたのか」

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