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ずっと4、50代ぐらいの気分だったのに……84歳の女性が“人生の最終コーナー”で思うこと

著者は語る 『マッちゃん84歳 人生店じまいはムズカシイ』(沼野正子 著)

『マッちゃん84歳 人生店じまいはムズカシイ』(沼野正子 著)

「こうして人とお話ししているときは、歳を重ねてきても、ずっと4、50代ぐらいの気分でした。でも80歳を越えたあたりから、まっすぐ歩けなくなったり、指先がうまく動かせなくなったり。それに昨年春先にひどい腰痛になって家からも出られなくなったことで、あぁ、私はアラ8(ハチ)、老人になったのだなぁと実感するようになりました」

 と、『マッちゃん84歳 人生店じまいはムズカシイ』を上梓した絵本作家の沼野正子さんは語る。

 本書は同じく絵本作家であるマツノマツコさん(マッちゃん)を主人公に、沼野さん自身の体験をふんだんに盛り込んだ、コミックエッセイ的な作品だ。

 80歳を過ぎたマッちゃんは、30年前に80代の老母キイちゃんを家に引き取って同居していた頃を思い出す。マッちゃんの家族とは別にひとりで食事をとりたがったキイちゃんの言動を、あの頃は理解できなかったけれど、同じ年ごろになったマッちゃんはよく理解できる。やがてキイちゃんは認知症に。

「玄関前の小さな椅子に座って、暗くなっても家に入らず、じーっと私の帰りを待ち続けるようになったんです。母が85歳のときのことでした。

 だから私にとって85歳は、人生のゴールに向かう最後のコーナーに感じます。ことしの秋には私もその年齢を迎えます。息子たちには、もし私の言動になにかあったら、かつて母がお世話になった病院の施設に入れてくれと言ってあるんです」

沼野正子さん

 マッちゃんは中年になった頃から、めまいやウツ、パニック障害などにも悩まされてきた。

 そうした日々のあれこれを、近所に店をかまえる「カフェ・ハギノ」で同世代の女友達と語り合う。

「私の住んでいるところは、40年前に分譲された宅地。ご近所の同時期に引っ越してきた人たちは世代も同じ、子どもも同じ年ごろだったので、ずっと情報交換をしながら暮らしてきました。いまはお互い7、80代。知人のなかにはパーキンソン病になった人もいますし、なかなか出歩くのもままならないので、電話でやりとりすることが多いのですけれど」

 沼野さんが絵本やイラストのほかに、コミックエッセイ的な漫画を描くようになったのは、30代の終わりごろ。

「きっかけは滝田ゆうさんの漫画に出会ったことですね。普通の生活を漫画で描いていたのが驚きでした。この手法で私もなにか描きたいと。雑誌に8年連載したはじめての漫画作品は、のちに単行本になりました(『ちょっとちょっとヤエコさん』)。いま見返すと、描き込みがだいぶ細かいですね(笑)。私が描きたいのは、当時もいまも等身大の女性のこと。だから今回の本は84歳まで生きてきた女の感想です」

 50代では、ダイエットをめぐる軽快なエッセイをものして、NHKでドラマ化もされた。60代には歌舞伎に出会い、入門書的なエッセイを書くほどに、はまった。しかし本書では漫画的な手法に立ち返った。

「絵じゃないと表現できないものがあったんです。たとえば夫が心筋梗塞に倒れ、手術を受けた姿。あのとき“地獄”と感じたイメージは、文章では表現できないものでした。

 いまは腰痛で次の作品をいつ出せるかわかりませんが、老いとともに生きていく自分を、どのように前向きにするのか、なにがその人の心の支えとなるのかに興味があります。毎日気が付いたことをメモにとっています」

ぬまのまさこ/1935年、東京都生まれ。絵本作家、イラストレーター。東京芸術大学工芸科卒業。著書に『みんな夢見る少女だった』『私のゆっくりおダイエット』、絵本に『ねこさんこんにちは』『おにつばとうさん』などがある。

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