疑問5 半地下生活の人々の「匂い」とは?

 半地下に住むギテクの一家は、長男ギウが家庭教師としてパク社長宅に雇われたのを皮切りに、家族である事を隠して父が運転手、母が家政婦として、それぞれ邸宅に入り込んでいく。しかし、パク社長の息子に、ギテクの家族から同じ「匂い」がすることを指摘されてしまう場面がある。

 映画では、この「匂い」が貧困を描く上で重要な役割を果たしているが、韓国社会において階層によって「匂い」の違いはあるのだろうか。

『パラサイト 半地下の家族』より ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 まず、ギテクの家族が住んでいる半地下部屋は窓が小さく、日差しがほとんど入らない。梅雨の時はカビ臭いかもしれない。さらに風通しも悪い。また映画では、ギテクの半地下の外壁に小便をしたり嘔吐したりする人もいた。

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 しかし、その匂いが人に付くだろうか? 私は韓国に住んでいるが、地下鉄や街で出会う人々から、こんな匂いを嗅いだことはない。

 ただ、私がはっきり言えるのは、韓国のお金持ちからは良い匂いがするということだ。ライターという仕事柄、ビジネスに成功した中年男性によく会うが、彼らの大半は香水を使っている。

 2015年の韓国の食品医薬品安全処の調査によると、韓国人男性の46.3%が香水を使用すると答えた。韓国の男性は香水だけでなく化粧品も積極的に使っている。同調査では、韓国男性は月平均13.3個の化粧品を使用しているという。

「外見も競争力」と思われる韓国では、汗など生活の匂いが「貧困の匂い」が思われているのかもしれない。

オスカー像を手にしたポン・ジュノ監督 ©AFLO

 この問題については、ポン・ジュノ監督が韓国メディアと行った以下のインタビュー内容を参考していただきたい。

「韓国社会で、金持ちと貧しい人の動線を見ると、実はあまり重ならない。行く食堂もそれぞれ違うし、飛行機に乗ってたとしても、ファーストクラスとエコノミークラスだから、いつも空間が分かれている。しかし、本作は、主人公の息子が家庭教師として初めて金持ちの家に入り、金持ちと貧しい者が互いの匂いを嗅ぎ合えるほど、非常に近い距離に置かれ、お互いの線をぎりぎり侵犯する、そんな話だ。それで、匂いという新しい映画的装置がストーリーにとって非常に大きな機能をする。

 匂いというのは、実は人間の状況や立場が表れるのではないか。一日中きつい労働をすれば、体から汗の匂いがするのが当然で……。そういったものに対して守らなければならない最低限の、人間に対する礼儀があるのではないだろうか。(本作では)そういった人間に対する礼儀が崩れる瞬間を取り扱った」