疑問3 ギテクの息子はどうして4度も大学に落ちたのか?
ギテクの長男ギウ(チェ・ウシク)は、パク社長の娘である女子高生の英語の家庭教師をするほど勉強ができて、あっという間にパク社長宅への“パラサイト”計画を立てるほど頭も切れる。
そんな彼は、4度も大学入試に失敗した設定となっている。なぜ4回も失敗するのか? そもそもそこまでして、なぜ大学入試に挑戦し続けるのだろうか?
まず、韓国の大学入試制度について説明しよう。韓国の大学は、「修能」といわれる大学入学のための共通試験の点数だけで入学できる「定時」(定時募集)で3割程度、残りの7割は修能の前に行われる「随時」(随時募集)という入学選考によって入学生が選ばれる。
「随時」の選考方法は様々だが、もっとも多く使われるのが「学生簿総合選考」(学総)方式だ。高校内申を含めて多様な活動にそれぞれ点数が付けられ、各大学は受験生が得た総合点数を参考にして新入生を受け入れる。趣旨は「どれほど充実した高校生活を送ったか」を評価するためのもので、ボランティア活動や部活など課外活動の他に、受賞実績なども評価の対象になる。
結果的には、この複雑な評価方法に対応するため、高額な授業料のかかる名門塾の指導が必要になってしまった。
「随時」に必要な自己紹介書を作成してくれる塾や、点数を稼ぐ効果的な校内活動を指導するコンサルティング塾が人気だ。さらには、富裕層の子どもたちの間では、曹国前法相の娘の不正入試疑惑に見られるように、親のコネを使った様々な“小細工”が蔓延するようになった。
結局のところ、「パラサイト」のギウのような庶民の子どもは、ひたすら試験勉強に没頭して、ただでさえ競争率が高まる一方の「定時」にしがみつくしかない。
ではなぜ、ギウは4回も落ちながら大学進学を諦めないのだろうか。それは、いい大学を出て、いい就職につかない限り、今のような貧困な生活から抜け出すことは不可能だと思っているからに違いない。
韓国社会は、1997年のIMF危機以降、中産階級が消滅して、一握りの上流層と庶民に分かれてしまった。このような格差社会で、韓国の庶民にとっては、教育こそが今の格差を乗り越えられる唯一の手段だと考えられている。ギウも、やはり名門大学を卒業して大手企業に就職することを夢見ていたかも知れない。
韓国の激しい学歴社会については、文春オンラインの別の記事(「映画『パラサイト』ではわからない韓国『超格差』社会」)でも、詳しく解説した。