読書と人脈づくりは似ている
──出口さんの本の影響もあって、いまビジネスパーソンの間ではちょっとした歴史ブームが起きていますよね。それについてはどう見ていますか?
出口 やっぱり歴史っておもしろいからじゃないですか。紙と文字が普及してから、いろんな人が、たくさんの歴史を書いてきました。自伝を書いて出版する人もいますしね。ただ、おもしろくないものは時とともに消えていくんですよ。その中で残ってきたものは、やっぱりおもしろいんです。事実は小説より奇なり、ですからね。古典と同じですよ。
──ただ、ビジネスパーソンの中には、おもしろいからというより、仕事に役立てようと思って、歴史を学ぶ人もいると思うんですが。
出口 それは「人脈をつくるためにはどうすればいいですか?」という質問に似てますね。人脈って“結果”なんですよ。来る者は拒まず、去る者は追わずで、オープンにたくさんの人と会って酒を飲んでいれば、その中からひとりぐらいは偉くなる人も出てくる。そこで結果的に人脈ができるわけで、最初から「人脈をつくろう」「この人は偉くなりそうやから付き合おう」という、さもしい気持ちで人と付き合っても、思い通りになるはずがないですよ。
本も同じで、ひょっとしたらそのうち仕事に役に立つかもしれない──それぐらいのゆるい気持ちで読めばいいんです。人脈と本脈はいっしょだと思います。
──いい言葉ですね。「仕事の役に立てよう」「教養をつけなきゃ」というプレッシャーから本を読んでも、しんどいだけでしょうし。
出口 このまえ、「読書」をテーマに講演会をやったんです。そのとき40歳ぐらいの人が、「毎週一冊以上本を読んでるんですが、まったく身につきません。どうしたらいいでしょうか?」と質問してきたんです。「どんな本を読んでるんですか?」と聞いたら、「上司が無類の本好きで、毎週2、3冊おろしてくるんで、それを必死で読んでます」という。上司からおりてきた本を読んで、頭に入るはずがないですよね。だから、「ぜんぶブックオフに持っていって、自分が本当に読みたい本だけを読みなさい。そしたら頭に残ると思います」と答えたんですけれど。
──ただ、読みたいものだけ読んでいると、つい漫画になっちゃったりもするんですが……。
出口 漫画でもいいじゃないですか。ぼくもそこの本棚に漫画を置いてありますよ。
──あ、みなもと太郎の『風雲児たち』ですね。
出口 ちょっと付箋を挟んであるところを読んでみてください。
──幕末の長州藩、毛利家は徳川家に300年の恨みを抱き続けてきた……と書いてあります。
出口 そのページを読むと、「なんでお隣の国は70年以上前に終わった戦争の話をいつまでも蒸し返すんや」という考えが、いかに愚かで皮相的かが分かりますよね。250万石、300万石と言われた毛利家が、関ヶ原の戦いのとき大坂にいたというだけで、周防、長門二国に押し込められて37万石になってしまった。そりゃ、この恨み忘れまいと思いますよね。
──実際、長州は300年近くたってから、明治維新で恨みを晴らすわけですね。
出口 人間というのはそういう動物なんやということが分かるでしょう。漫画だって考えながら読めば、変な歴史書を読むより、はるかに勉強になりますよ。