泊まるところは、野宿も想定したが、知り合いがいる地はその家を頼った。ネットカフェや、二輪愛好家が集うライダーハウスも活用する。食費は極力切り詰める(もちろん、名物は食べた。結果としてコンビニ食が多く、ローソン、ファミマ、セブンのカップ麺はほとんど食べた)。
観光地などの名所旧跡は訪れるようにした。入場料は必要経費だ。そうしたスポットがない市町村では、役場や駅など、わかりやすい場所に行って原付を停め、周辺を歩き回って写真を撮ることにした……。
怪我を押して旅を再開、北海道で自信がつく
こうした計画をこなしていけば、9カ月で1000市町村を廻ることができるはずだったのに、初日の怪我で、すべておじゃんになってしまった。
不幸中の幸いは、骨には異常がなかったことだった。実家近くの病院で診てもらうべく、カブ号を親戚の家においたまま、新幹線で一旦、倉敷に帰る。1カ月後にまた来てください、という診たてだったので、親戚の家にとって返し、九州に向け、恐る恐る旅を再開した。4月半ばになっていた。右ひざが痛み、当初は5分に1回はカブ号を停め、休息を取らなければ走れなかったが、じきに慣れていく。
5月26日、沖縄を含む九州を廻り終えて、大分県別府市から愛媛県の八幡浜へ船で渡る。四国東の最南端、室戸岬に着いたのが、5月31日のことだが、この日は嬉しいことがあった。右ひざの傷が閉じている感じがしたのだ。膿も出なくなっている。そこから瀬戸内側に出て、船で本州に渡り、6月5日、予定通り、倉敷に戻り、病院に行くと、通院不要を言い渡された。嬉しかった。
こうなると、旅のペースが上がり出す。京都の舞鶴から北海道の小樽へフェリーで渡ったのは、6月18日のことだ。北海道には179の市町村があるが、約1カ月で160を廻ることができた。行ける!これは大きな自信になった。
秘境村に根付く歌舞伎、日本一人口の少ない都内の村
印象に残った市町村は山ほどある。それこそ、質問者の興味関心に応じて、いくつも例示できるだろう。
他の人があまり行かない秘境という意味では、福島県の檜枝岐村(ひのえまたむら)だ。その直前に訪れた只見町から60キロも離れている福島最奥の村だ。秋の冷たい雨に濡れながら、こんな山奥に村なんてあるんだろうか、と思いながら、ひたすら山中に開かれた道を進み、ようやく到着した。
そこで目を引いたのは、創建は江戸時代という茅葺屋根の歌舞伎舞台だ。その前に広がる斜面に作られた露天の石段が観客席になっている。演じ手も観客も村人という歌舞伎が、村内の数少ない娯楽だったのだろう。四方を山に囲まれた同じような秘境、長野県大鹿村でも歌舞伎文化が綿々と受け継がれていた。
離島もそれぞれに興味深かった。なかでも印象に残っているのが、東京都の青ヶ島だ。青ヶ島村の人口はわずか170人で、日本一人口が少ない村である。二重カルデラの島としても有名だ。