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 まず船から見える港の光景に目を奪われた。断崖絶壁にとりつくように、コンクリートで作られた要塞のようだ。そこからトンネルを抜けて島内部に入っていく。集落は1箇所しかなく、番地がないので、郵便物はすべて名前の記載のみで届けられる。

青ヶ島。仁科さんのサイト「ふるさとの手帖」より
青ヶ島の港。仁科さんのサイト「ふるさとの手帖」より

過疎地域に住む人に対する思い込み

 その日の宿泊地であるキャンプ場に向かう途中、島民の人の車にヒッチハイクで乗せてもらった。高齢の男性だ。トマトなどを栽培している、その人の農場も見学させてもらった。島外から住み着いた人だそうだが、この島で生涯を終えるのだろう。そういう自分の人生を達観している感じがした。

 この青ヶ島に限らず、過疎地域に住む人たちは不便な生活を憂えているのだろう、という感覚を都会人は抱きがちだが、実際は違うようだ。コンビニが近くになくても、鉄道が走っていなくても、住んでしまえばそこが都、その不便さが当たり前になり、嘆きの対象にはならない。

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 しかも、過疎地域ほど、役場の建物や道の駅が立派なのだ。中小、中堅都市に広がるシャッター街を通り抜ける時のほうが日本の過疎化を強く実感した。 

 

三大山城で遭難しかけた

 もちろん、地方にだって、外から若者が移住し、栄えているところがある。

 たとえば岡山の西粟倉村だ。林業を軸に地方再生を行う村として有名で、村内で採れる檜を使って作る家具メーカーの完全予約制のショールームを運よく見学させてもらった。

 岩手の遠野市もその一つだ。遠野はビールの原料となるホップの日本有数の産地であり、官民一体で「ビールの里」構想を打ち出し、全国から様々な人が移住してきている。

 実は旅の途中で資金が足りなくなり、クラウドファンディングを行ったところ、目標額の7万円をあっという間に突破し、最終的に47万5000円に達した。お金を出してくれた一人が遠野の人で、その縁で遠野には2泊3日で訪問し、ホップの畑からビールの醸造所、クラフトビールが飲めるパブまで、案内してもらった。通過旅もいいけれど、一つの場所を深く知る逗留旅も面白い。

 恐かったのは、奈良県高取町で、日本三大山城の一つ、高取城跡に行ったときだ。城は標高583メートルの山頂にあり、そこからの眺めは素晴らしかったが、帰りは道に迷ってしまった。12月だったので日没が早く、すぐに暗くなった。おまけに寒い。すわ遭難か、と思ったが、元来た道を引き返し、ようやく正規の道を発見でき、ことなきを得た。

高取城跡にある標識。仁科さんのサイト「ふるさとの手帖」より