世間を緊張させている新型コロナウイルス問題だが、「隠者の王国」とも呼ばれる閉鎖国家・北朝鮮も例外ではない。

 その対応はどの国よりも早かった。1月末には中国との国境を閉鎖した。日米韓などが中国・湖北省などに住む自国民をチャーター機で帰国させるなか、北朝鮮は中国で働く海外派遣労働者の帰国を禁じた。物流も遮断したため、主に中国からの輸入に頼っている食用油や砂糖、小麦粉などの市場価格が国境閉鎖の数日後にはすぐに50%、60%と上昇し始めた。

普段は多くの物資が行き交う中朝国境にある中朝友誼橋 ©AFLO

「国際社会による経済制裁を忠実に履行している状態」

 こうした状況について、韓国の北朝鮮専門家は「北朝鮮が自ら、国際社会による経済制裁を忠実に履行している状態」だと指摘する。ただ、北朝鮮は現時点で国境閉鎖措置を緩和する気配を見せていない。日本の朝鮮総連に対しても、「中国経由での訪問者は原則として受け入れない。どうしても必要な場合は、入国後に30日間の隔離措置を取る」と通告しているという。

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 一方、首都・平壌ではマスク姿の通行人の姿を見かけるようになった。朝鮮中央通信は、金正日総書記の生誕記念日にあたる2月16日、金総書記の銅像などに献花する平壌市民の写真を配信したが、一般市民も軍人もみなマスクを着用していた。

金総書記の銅像などに献花する平壌市民 (朝鮮中央通信より)

 平壌に住んでいた脱北者によれば、北朝鮮では従来、風邪などの予防でマスクを着用する習慣はなかった。この脱北者は「マスクは、防塵用として建設現場や炭鉱で働く人が着ける程度だった」と語る。一般的な需要もないため、市場で見かけることも珍しかったという。市民はマスクが必要な場合は、ガーゼを重ねて手作りしていた。

マスク1枚でコメ1・5キロが買える値段

 それが突然、我も我もとマスクを着用し始めた。北朝鮮の国営メディアは、当局が人民班や職場ごとに講習会を開き、新型コロナウイルスへの感染防止のために手洗いなどを行うよう指示していると伝えている。マスク着用も国家による命令が半ばあったと想像するに難くない。

 ただ、今の北朝鮮は、国がすべてを配給してくれる国家ではない。別の脱北者は「マスク価格が急騰している」と証言する。この脱北者によれば、国境閉鎖措置を取った直後の1月末の時点では中国製マスクが1枚あたり6千ウォンもした。コメ1・5キロが買える値段だ。私がこの脱北者に話を聞いた2月上旬の時点では、価格は8千ウォンまで上昇。韓国製の高級マスクは1枚あたり2万から3万ウォンもするという。