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久留米準強姦が逆転有罪 裁判所の「経験則」に変化の兆しか

女性がテキーラを大量に飲まされ、姦淫された

2020/02/21
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久留米支部で争われたテキーラ準強姦事件の詳細は?

 久留米準強姦事件は、大変に複雑で、報道された時期によって、流れた情報が違う。このため「有罪で当然の事実関係なのに、地裁では不当に無罪判決が出た」と憤る人と、「事実関係が奇妙だから奇妙な結論が出たのかもしれない」と思っている人とがいる。いったん、この事件の事実関係を整理しておこう。

 この事件は、社会人のスノーボードサークルの飲み会で起こった。事件の日、被害者は初めてこのサークルの飲み会に参加し、被告人とも初対面であった。

 事態をより複雑にしているのは、罰ゲームで被害者にテキーラを一気飲みさせて抗拒不能にさせた者と、被害者と性交した者が別人であるという点である。準強姦罪の成立を判断するのに、抗拒不能にさせた者と、性交した者が、同一人か別人かは、非常に重要な要素である。

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 加えて「このサークルのイベントでは、わいせつな行為がしばしば行われていたこと」が明るみに出た。しかも、この事件では性交自体、飲み会中の店の中で行われており、目撃者が複数いるという特殊性があった。

©iStock.com

地裁が被告人の「故意」を否定した3つの理由

 地裁が、被告人が「性交時、被害者が『抗拒不能』であると認識していなかった」と事実認定した理由は、次の3点である。

(1)被害者は、性交時、飲酒による酩酊から冷めつつある状態にあり、意識があるように見える状態にあったこと

(2)被告人は、被害者が、性交を許容していると誤信している状況にあったこと

(3)被告人が、被害者の同意がないとか、被害者が抵抗できない状態にあるなどといった認識の下で性交をするとは考え難いこと

 では、地裁は、どのような生の具体的事実を基に、以上の3点を認定したのだろうか。

 まず、地裁は、性交中、被害者が多少身体を動かしたり、声を出したりした事実から、「(1)被害者は、意識があるように見える状態にあったこと」を認定した。

 しかし、準強姦罪の成立には、被害者の「抗拒不能」は必要だが、意識不明までは要求していない。身体に対して刺激を与えられた被害者が、何らかの反応をすることは、準強姦罪・準強制性交等罪に織り込まれている。他の事件を見ても、被害者が、このような反応をしたことが認められても、被告人の故意が認められ、準強姦罪・準強制性交等罪が成立している裁判例は多数ある。

 地裁が、「(2)被告人は、被害者が、性交を許容していると誤信している状況にあったこと」を認定した過程は、さらに疑問符がつくようなものだ。