「経験則」を変えていくための国の取り組み
法務省では、2018年4月20日、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」が設置され、検討会が、本日現在までに、12回開かれた。議事録はオンライン上で公開されている。
議事録によれば、法務省がヒアリングをしたのは、性犯罪被害者本人、性犯罪被害者を支援する弁護士、性暴力被害者のワンストップ支援センター、性暴力被害者支援をする臨床心理士・精神科医などである。
議事録の質疑応答を読むと、ヒアリングの結果に、法務省の関係者が驚きと戸惑いを感じていることが伝わってくる。法務省が想定していた「被害の実情」と、被害者本人や被害者支援を職業とする人々が見ている「被害の実情」との間に大きな差があるのだろう。
刑事裁判官に対しても、性犯罪被害者本人を講師とする研修が、2019年10月、最高裁の司法研修所で行われた。性犯罪被害者本人を招いたのは、初めてである。こうした試みによって、裁判官の「経験則」が、被害の実情に即したものになることを切に望む。
被害者を救うには、「経験則」を変えるだけでは不十分
しかし、「経験則」が変わるだけでは、性暴力被害者は救われない。裁判官がどのような判断をするかを予測できなければ、検察は起訴に消極的になるし、検察が起訴に消極的であれば警察は被害届を受けることをためらうからである。
この事案を離れて、広く刑法の在り方を考えた場合、どのような行動が犯罪となり、どのような行動なら犯罪とならないのかを予測できないのは、非常におそろしいことである。刑法は、国民が自分の行動を決める基準にもなるから、明確でなければならない。
先述の法務省のワーキンググループが始まって2年。「被害の実情」に関する正確な知見が集まってきた。このワーキンググループを検討会に育て、性犯罪に関する刑法そのものを見直すべきである。