ポイントは「目撃者多数」という特殊性か
地裁は、なぜ、このような事実認定をしてしまったのであろうか。
地裁は、目撃者が多数いる店内で行われた事件であるという特殊性から、「(3) 被告人が、被害者の同意がないとか、被害者が抵抗できない状態にあるなどといった認識の下で性交をするとは考え難いこと」を認定した。つまり、「目撃者が多数いる中で、犯罪と認識して犯罪をする人はいない」という「経験則」を用いて(3)を認定したのだ。その認定に(1)及び(2)が引きずられたのではないかと私は考えている。
しかし、今回の逆転有罪では(3)の「事実認定」が否定された。高裁は、「事件の起こった店内の状況などからすれば、被告人は、被害者との性交を他人に見られて通報されることを不安に思うような状況にない」と述べたのだ。
つまり、このスノーボードサークルの性質が、地裁では「被害者の承諾があると誤信させる理由」として無罪方向に作用し、高裁では「被告人が通報を恐れる状況にない理由」として有罪方向に作用した。これは、どういうことか。
高裁は「ヤリサー」の実態を勘案したのでは
今回の事件における被告人の弁解を簡単にまとめると、「女性から『性交の承諾があった』と、被告人が誤信してしまうような状況だった」という主張だ。
しかし、飲酒酩酊して眠っている女性をみて、通常は「性交の承諾あり」と誤信することはない。飲酒酩酊して眠っている女性をみて、「性交の承諾あり」と誤信したという弁解が通るには、被害者が、そのサークルの飲み会で酔い潰れていたら、性交されてしまうことを容認して入会しており、被告人が被害者の容認を知っているような特殊な事情が必要であろう。飲酒して眠っていたら、誰から性交されるかもわからないサークルに、女性会員が次々に入会するとは、私の「経験則」からすれば考えがたい。
異性と接触し、あわよくば性交することを目的とした団体を指す、「ヤリサー」という俗称がある。
通常の「ヤリサー」では、その目的を秘して女性の勧誘がなされ、既存の男性会員は、勧誘時に目的が秘されていることを認識している。今回の事件が起こったサークルも、そうした典型的な「ヤリサー」だったということであろう。
前述の通り、高裁は「事件の起こった店内の状況などからすれば、被告人は、被害者との性交を他人に見られて通報されることを不安に思うような状況にない」と述べた。これは、事件当時の状況では、酔い潰れている女性と性交をしても、共通の秘密となるような雰囲気があったことを認定したのであろう。ヤリサーの乱痴気騒ぎは、そういうものである。