映画『STAR SAND―星砂物語―』は、昭和20年、沖縄のある小さな島の洞窟で出会った日本軍と米軍の脱走兵、そして16歳の少女の交流から生まれたものが次代に継がれることを願う物語だ。原作者のロジャー・パルバース監督から日本人脱走兵役として強く出演を請われた満島真之介さんは、衝動的に“いま演るべきだ”と感じたという。
「沖縄で生まれ育った僕は、手や足がなかったり、体に弾が残ったままのお爺ちゃんやお婆ちゃんたちと当たり前のように接してきました。みんな明るくて生きる力が伝わってくるけれど、何があったのか互いの核心に触れられないもどかしさばかりでした。真正面から考えるようになったのは東京で仕事を始めてからです。沖縄を思う機会が多くなりました。いつも笑顔のお爺ちゃんやお婆ちゃんたちが6月23日に黙祷する姿や三線の曲に込められた想いとは何だったのか。僕自身、沖縄に生まれながら祖父がアメリカ人であることの意味、僕は何者なのか、そういうことを見つめる時期にきていたんです。だからこそこの作品を演るべきだと決心したんです」
パルバース監督は1944年に米国で生まれたが、ベトナム戦争に参戦する祖国に反撥し、後にオーストラリア国籍を取得している。若者が徴兵され、兵士を英雄視する空気が国中に満ちていくなか、「本当の英雄は人を傷つけない」との思いが原作『星砂物語』(講談社)のテーマとなっていった。物語は、洞窟での出来事が記された少女の日記を手にした現代の女子大学生を通して、戦時の人間の姿、さらには人を殺(あや)めることが何をもたらすのかを投げかける。
「星砂とは星形の砂のように見えますが、海に住む生物の抜け殻なんです。監督は、40年前に沖縄の鳩間島で星砂を初めて見たとき、“亡骸”であるはずのものに希望や未来の象徴のような美しさを見たようです。作品でも、時を超えて人を繋ぐ、とても大切なものとして描かれています」
撮影は伊江島の、子授けの神が祀られる「ニャティヤ洞」で行われた。子供の頃の満島さんにとっては夏休みに家族で過した島でもある。
満島さんは撮影期間中、この洞窟の入口にある祠へ毎日必ず手を合わせたという。
「あの洞窟は映画の中で、未来を信じる人の思いを育む“母体”のようにも思えました。その未来とは、いまを生きる僕たちそのものです。現代は大事なことを考える時間が失われているようにも感じるんです。映画ならそのきっかけを与えることができるんじゃないか。この作品が戦中、戦後、そして平成に生まれた人の懸け橋になって、考える一歩になってくれたら嬉しいです。普遍的な作品です。細く長く、毎年上映されるといいなと思っています」
みつしましんのすけ/1989年沖縄県出身。2010年舞台『おそるべき親たち』で俳優デビュー。若松孝二監督『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)では報知映画賞新人賞などに輝く。2016年には野田秀樹作・演出のNODA・MAP『逆鱗』に出演し演技力が高く評価される。
『STAR SAND―星砂物語―』
出演:織田梨沙、満島真之介、ブランドン・マクレランド、三浦貴大/吉岡里帆、寺島しのぶ/渡辺真起子、石橋蓮司、緑魔子
監督・脚本:ロジャー・パルバース
8月4日から東京・ユーロライブほか全国順次公開
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