長編第1作『ヘレディタリー/継承』で世界中を恐怖の底に突き落としたアリ・アスター監督の待望の新作『ミッドサマー』が、2月21日(金)から公開される。新作は、スウェーデンの奥地で開かれる「90年に一度の祝祭」を訪れたアメリカ人一行の顛末を追うフェスティバルスリラー。家族との間に問題を抱える主人公ダニーは、恋人のクリスチャンとその友人たちに誘われ祝祭の見物にやってくるが、明るい楽園ムードのなか、次々に不可解な出来事に襲われていく。前作同様またも恐怖と不穏さに満ちた作品だが、監督曰く「これはホラー映画ではない」というから驚きだ。

アリ・アスター監督

『ミッドサマー』はダニーの目覚めを描いた映画

――ご自分では『ミッドサマー』をホラー映画とは考えていないそうですが、前作『ヘレディタリー/継承』もホラー映画のつもりで作ったわけではないということでしょうか?

アリ・アスター いえ、『ヘレディタリー』はもちろんホラー映画です。でも『ミッドサマー』の場合はそうではない。少なくとも僕はホラー映画というジャンルに属する作品だとは考えていません。

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――とはいえ『ミッドサマー』は、たとえば『ウィッカーマン』(ロビン・ハーディ、1973年)のような民間伝承を基にしたフォークホラー映画の系譜に連なる作品にも見えます。

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アリ・アスター 伝統的なフォークホラーの要素を応用してはいますが、自分としてはあえて既存の映画ジャンルから離れようと試みています。観客にはダニーの視点に立ちいろいろな経験をしてほしい。ダニーの道のりとその他の人たちの経験はずいぶん違っています。彼らはそれぞれ全く別の映画の中にいるのだと考えることもできるでしょう。

――ダニーは自己の目覚めの物語内にいますね。一方で、彼女の友人たちはかなり嫌悪感を抱かせる人物として描かれます。ダニーとクリスチャンの明暗の分かれ方や村の組織構造を見ると、女性と男性という性別の違いで彼らを分けているようにも感じましたが。

アリ・アスター たしかにダニーと一緒に旅をする男性たちはみな好ましくないキャラクターとして描かれています。特にクリスチャンは最も嫌悪感を掻き立てます。でもジェンダーの問題として男性=悪だと規定したいわけではない。何よりこれがダニーの物語だからです。ダニーにとって好ましくない人物は、観客にとっても好ましくない人物であってほしい。

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 僕はそもそも自分自身をダニーに投影してこの物語を書いていました。グループの中で、ダニーは完全に孤立しています。彼女は偶然、どちらかといえば女性の力がより強大なコミュニティに足を踏み入れ、ここでなら自分が必要なものを得ることができると気づく。おっしゃるように、『ミッドサマー』は何よりもダニーの目覚めを描いた映画だと考えています。願望成就をめぐるファンタジーでもあり、家族を失った主人公が新しい家族を獲得するまでを描いた『オリヴァー・ツイスト』的な物語でもある。ただし新たな家族とは誰か、という点が複雑です。ダニーが出会うスウェーデンのコミュニティの人々は、高い共感力を持ち、思いやりに溢れる一方で負の要素も抱えていますから。

 この映画は、カタルシスについて書かれた随筆ともいえます。大きなカタルシスに向けて少しずつ物語を積み上げ、最後の瞬間、すべてが解放されるようにしたつもりです。ただし、そこで爽快さを感じると同時に奇妙な後味も感じてほしい。表面上の物語とは別に、底流にはいくつもの物事が隠れていて、それがこの映画の構造をより複雑にしている。でもよく画面を見てもらえれば、問題はあらかじめあちこちに存在しています。決して意図的に隠しているわけではありません。