とある雑誌の企画で「今期のドラマ期待度ベスト10」を選ぶというものがあった。僕は迷わず1位を『わにとかげぎす』にして提出したら、識者、記者、編集者らの票を集計したランキングで10位以内にも入らずびっくりしてしまった。確かに、深夜の放送だということに加え、出演者もヒロインの本田翼はともかく、水曜日のカンパネラのコムアイや、ラッパーのACEやDOTAMAといった異色の名前が並ぶ。何より、主人公を演じるのがくりぃむしちゅーの有田哲平だ。相方の上田晋也が『天才バカボン』で今時あり得ない演技を披露したことも記憶に新しい。いわゆるイロモノ的ドラマと見られてもおかしくはない。

 主人公の富岡ゆうじはショッピングセンターの警備員。38歳になっても恋人はおろか友達もいない。「37%は童貞のまま死んでいく」というセミに感情移入しながら、うだつが上がらない日々を過ごしている。それを有田が静かなトーンでリアルに演じているのだ。屋上でパンツ一丁で筋トレに励んでいるが、お腹はプニョプニョ。それだけでこの男がこれまで怠惰な生活を送ってきたことや何かに真剣に取り組んでこなかったことが想像できてしまう。そしてある日、富岡はドアに挟まれた一枚の紙を見つける。

「警備員へ お前は一年以内に頭がおかしくなって死ぬ」

ADVERTISEMENT

 こういうことはしないでほしいなぁ~と力無くつぶやく富岡を演じる有田のトーンが絶妙だ。まずこの導入から、イロモノとは一線を画するドラマであることが分かる。そんな時、知り合ったのがアパートの隣に住む羽田梓(本田翼)。どうやら彼女は富岡を“監視”しているようだ。若くて美人だが、どこか間が抜けていてバカっぽく、サバサバしている。まさに原作の古谷実が描くヒロイン像にピッタリだ。この本田翼が顕著だが、有田やコムアイなど、このドラマにキャスティングされた人たちは、見た目から古谷実が描きそうな雰囲気を持っている。おかしな言い方だが、彼らの風貌は“絵柄”が古谷漫画っぽい。だからこそ、ミュージシャンやお笑い芸人が多数出演していても、変な浮き方をしていない。闇金社長をインテリヤクザ風に完璧に演じているDOTAMAは今後、役者仕事が急増するに違いない。

 奇をてらったキャストではないことが証明され、古谷作品独特の不穏な空気が充満している。期待通りの滑り出しだった。

▼『わにとかげぎす』
TBS 水 23:56~24:26