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2050年、世界人口は爆発的に増える説と減る説、どちらが正しいのか?

2020/02/26
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数字には現れない「世界各国の若い女性たちの生き方」

 では、2050~60年代には人口増加が止まるとする専門家たちの見解と、そうではないとする国連の予測とどちらが正しいのだろうか。

 それを知るには、世界各地で人々がどのよう価値観を持ち、どのような生活を営んでいるのかを知る必要があるが、こうした疑問に答えてくれた著作がついに登場した。『2050年世界人口大減少』である。

 統計分析の専門家とベテランジャーナリストという著者ふたりが、各種統計を吟味するのみならず、中国、インド、アフリカ、ブラジル、ヨーロッパ、韓国など世界各地へと実際に足を運んで実情を調べた。そして、地域ごとの価値観や文化的背景、政治制度や経済システムを加味し、そのうえで世界人口が減少へ向かっていることを、きちんと裏打ちしてみせたのだ。まずはその行動力に敬意を表したい。

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©iStock.com

 著者たちは、地球の未来を決めるうえでの「最大の変数」である出産可能な年齢の若い女性たちが置かれている状況を観察し、彼女たちの生き方や願望に至るまで聞き取り調査を行った。すでに少子高齢化に突入したEUで、「ふたりめの子どもは無理」と生活コスト面からの苦悩を明かす若いカップルたち。一方、父親が女性の生き方を決める文化が残っているインドなどもある。避妊に対してのハードルも国によって違う。宗教も絡んでいる。それぞれの地域に、それぞれの理屈や事情がある、という印象を強く抱いた。

 しかも、インドのスラム女性たちが、サリーの中に仕舞われたスマホを通じて、現代的価値観に触れていることを著者たちは見逃さない。アフリカでも、伝統的なダウリー(持参金)をスマホで払うなど、旧習と最先端テクノロジーがないまぜとなっている。都市化が進むケニアでは、アファーマティブ・アクションもあり、いまや大学生の40パーセントが女子学生だ。出生率が1・8まで下がったブラジルは、女子教育の普及に加え、核家族を魅力的に描いた大人気テレビドラマの影響も絶大だったとする。こうした観察を通じ、伝統的価値観とせめぎあいながらも、総じて子どもを多くもうけない、という方向に大きく動いていることを見抜いているのである。なかでも、多産傾向にあるとされていた貧困層の女性の多くが、じつは避妊したいという願望を持っている、というのは新しい発見だった。

 ジャーナリスティックな視点を持つ著者たちの現地レポートを読むかぎり、2050~2060年頃に世界人口が減少に転じるという専門家たちの予測に軍配が上がるといえよう。それどころか、コンピューターの普及によって情報が瞬く間に地球を駆け巡り、人々の価値観が伝播し得る時代である。人口減少に転じる時期は専門家や同書の予想をはるかに上回ることとなるかも知れない。

2050年 世界人口大減少

ダリル・ブリッカー,倉田幸信(翻訳)

文藝春秋

2020年2月24日 発売

2050年、世界人口は爆発的に増える説と減る説、どちらが正しいのか?

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