新型コロナウイルスによる肺炎の流行で、北朝鮮は早々に北京と平壌を結ぶ航空路と鉄路を運休。さらに中露国境を封鎖して文字通り鎖国となった。情勢が掴みにくくなった今、海を越えてやってくる漂流ゴミがメルクマールになるのではないだろうか――。

 筆者は漂流物調査を続ける中、中国で新型肺炎の発生が確認されて以降、ある変化に気が付いた。北朝鮮の海洋プラスチックゴミから透けて見える、人民生活の実情を報告する。

これが北朝鮮の漂流物だ

 1月末、強い季節風と氷雨が打ち付ける日本海沿岸だが、まれにある晴天を狙い、本土からの連絡船に乗った。向かう離島の名前は明かせないため、本稿では仮に「O島」とする。

ADVERTISEMENT

 汽船場に船が到着すると、島に住む協力者が用意した乗用車に乗り換え、海岸に向かった。

1日でこれだけ見つかる(筆者撮影)

 大小の石が無数に転がる足場の悪い海岸には中国、韓国、ロシア、そして東南アジアなど、ありとあらゆる国々から大量のゴミが流れ着く。ゴミの山をかき分けると「総合工場」「作業所」「貿易会社」といった独特のメーカー名がラベルに印刷されたペットボトルが現れる。一見すると韓国のゴミに見えるポップなイラストや文字フォントのラベルだが、朝鮮語を読み解くと、どの事業所も昭和っぽい渋いネーミングで統一されている。北朝鮮からの漂流物だ。

 O島に目を付けたきっかけはその歴史にある。

この汚い海岸から北朝鮮からの漂流物を見つける(筆者撮影)

 江戸時代から明治初期にかけて動力船がなかった時代、朝鮮半島から漂流した船の記録で圧倒的に多いのがO島だった。特に北西部N岬は現在も難破船の“名所”として地元で知られている。冬場は季節風に加え、朝鮮半島北部からの強い海流が押し寄せる。そこで筆者は9年前から冬場から春先にかけてO島N岬付近にある海岸に通い、北の漂流物を定点観測しているのだ。

 当初は「歯薬」と表記のある歯磨き粉チューブや破砕した難破船の残骸、ポリタンクといったアイテムが主流だったが、4年ほど前からペットボトルが出現。今回の探索では計33本を回収した。探せばいくらでも見つかるが、連絡船に積める手荷物の範囲を超えてしまうため、それ以上は諦めざるを得なかった。