自殺か、それとも孤独死か?
前の入居者がトイレで亡くなったことは管理担当者から聞いている。ということは、死後発見されるのに時間がかかり、腐敗した遺体の体液が床下まで染み込んで、クリーニングだけでは臭いまで取れなかったということではないだろうか。
おそらくこれは、孤独死だ。
この場合、前入居者が若者であれば自殺の可能性もあるが、今この空間に漂う臭いは、間違いなく高齢者のそれである。高齢者であれば、排便の時に力みすぎると血圧が上昇し、心臓に負担がかかり、突然死することも少なくない。ちなみに厚生労働省の調査では、突然死全体のうち約5%は、高齢者のトイレでの脳卒中や心筋梗塞が占めるとされている。さらには、心疾患による突然死の約8%がトイレでの排便中に起こっているという。
トイレや浴室で起きる孤独死は、発見が遅れてしまうことが多い。トイレ・浴室は、家という遮断された空間の中の、さらに内側から鍵がかけられる密閉空間であるため、遺体の腐敗が相当に進行していないと異臭が家の外まで拡散されないのだ。よって、外の人間が中の異変に気づいた時には、死後かなりの時間が経っている。そのせいで死亡現場の臭いの染みつき具合はさらに酷くなるであろう。
築30年以上の事故物件アパート
昨年、四国に住む知人の紹介で、彼の親戚が大家である事故物件アパートに、特別に1泊させてもらった。
そのアパートは築30年以上の2階建てで、元々の家賃は3万5000円ほどである。事故物件に該当する部屋の前入居者は70代女性で、部屋の真ん中で倒れているのを大家が発見。救急車で病院に運ばれたが、すでに死亡していた。死因は心筋梗塞で、亡くなってからすぐの発見だったようだ。