3月下旬になれば菜の花も満開になるだろう
大多喜駅の前後で車窓に大多喜城が見える。大多喜駅の先で鉄橋を渡るとき、川と森の向こうに白い天守閣が見える。その景色が車窓のハイライトだと思うけれども、乗客の皆さんはお酒と料理に夢中のご様子。花より団子、城より地酒。たしかに、この旅はテーブルの上の魅力が大きい。“呑み鉄”にとって、車窓はなくてはならないとはいえ、今回は脇役だ。
満腹になり酔いも回り、ふわふわ心地になった頃、なんとシメのたこ飯のおにぎりと吸い物が出た。どっしりとお腹が落ち着く。満腹。
折り返し地点の上総中野駅で列車を降りて、酔い覚ましの散歩を楽しむ。まだ冷たい風が、火照った身体に心地よい。菜の花はまだ3分咲き。営業運行開始の3月下旬になれば満開になるだろう。
大原駅は東京駅から特急「わかしお」に乗って約70~80分だ。都内から十分に日帰り圏内である。
いすみ鉄道は外房線の大原駅と房総半島の中心部、上総中野駅を結ぶ。営業距離は26.8kmだ。上総中野駅には内房の五井駅から小湊鐵道が通じており、2路線を通して房総半島を横断できる。海から山へ、そして海へ。これも乗り鉄にオススメのコースである。
昭和の風景と観光列車で有名に
いすみ鉄道には菜の花色のディーゼルカーと、昭和生まれの乗り鉄にとっては懐かしい「キハ28」と「キハ52」がある。この2両は国鉄時代に製造され、JR西日本に継承された。キハ28は山陰・北陸方面で、キハ52は大糸線で走っていた。どちらも老朽化のため引退したところ、いすみ鉄道に譲渡された。沿線風景と合わせて「昭和ロマンの鉄道風景」を演出している。
週末限定の急行列車は、主に国鉄型車両で運行されている。古い貴重な車両をめあてに、わさわざ乗る人も、撮影にくる人も多い。鉄道自体がこの地域の観光資源になっていて、乗りに来た人は沿線で食事したりお土産を買ってくれる。クルマでやってくる撮り鉄は、さらに給油もしてくれるし、重さを問わず直売野菜を買ってくれる。いすみ鉄道は赤字だけど、地域への経済貢献度は高い。
さらに、2013年から「レストラン・キハ」を運行開始。いすみ鉄道で週末に運行する急行列車のうち1両を食堂車仕様にして、東京からもっとも近い食堂列車として話題となった。現在も毎週日曜日に「イタリアン列車」が運行されている。こちらは茂原のイタリアンレストラン「ペッシェ・アズーロ~青い魚~」の池田シェフによる「伊勢海老特急イタリアンコース」だ。料金は16,000円で、地元名産の伊勢海老などを使っているという。