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役割に縛られ苦しむなら、違うところで発散するのも……

――最後にもう一つお聞きします。「春、死なん」のなかで、婚約直後の主人公が浮気して女性と寝てしまう場面があります。現代社会では、性の問題でも、浮気や不倫についての報道が注目を集めています。どのように捉えていますか?

紗倉 当事者間でしかわからないようなことを、他者がまるで自分のことであるかのように憤る。そんな風潮に私はちょっとついていけないところがあって。モラルの基準ってその時代によって移ろうものだと思っていて、10、20年前だったら? 別の国だったら? と想像してみると、今の社会の常識も必ずしも普遍的ではないですよね。

©文藝春秋

 不倫は肯定も否定もしないですけど、私が小説に書いた「役割」という面で見ると、「結婚したらセックスに応じるのも妻や夫の役目なんだ」といわれたら、それを強制するのもまた違うと思います。

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 私は、突飛な仕事をしているからなのか、「役割」的なものについて気にせずに生きてきたと思います。だからこそ、主人公の富雄のように、どうして若い頃、結婚が決まっていたのに別の女性とまぐわってしまったのか、また、その後長年連れ添って亡くなった自分の妻に対してなぜここまで依存してしまうのか……。そういう「自分がどうしてこうなってしまうのか」の答えを見つけられずに揺れたまま年齢を重ねてしまう人は、少なくないんじゃないかと思います。

©文藝春秋

 それだけに、役割に縛られすぎて苦しむのであれば、違うところで欲情を発散するのは、一つの方法としてありなのかなあ、と。さみしさを発散するすべとして。結局「役割」のしわ寄せで誰かがすごく窮屈になってしまうのが私はもどかしい、というか……。でも何とも言いきれないですね、なんせ、結婚したことないもので(笑)。

紗倉まなさんインタビュー

 

春、死なん

紗倉 まな

講談社

2020年2月27日 発売