「職業は、“エロ屋”ですね。AV(アダルトビデオ)の仕事も物を書くことも、その言葉に内包される。下町感があるというか、泥臭いにおいがする言葉でもあって、自分に適していると思うんです」
少し照れくさそうに話すのは、現役の人気AV女優、紗倉まなさん(26)。
タレントや歌手、作家としての顔も持つ紗倉さんは2月末に3冊目となる小説の単行本『春、死なん』(講談社)を刊行した。収録されているのは高齢者の性を描く「春、死なん」と、母親である女性の性を見つめる「ははばなれ」の2作。どちらも芥川賞受賞作を多数送り出してきた文芸誌「群像」に掲載された堂々たる純文学作品だ。
敬遠されがちな「性」という題材に真っ向から挑んだ小説集の反響は大きく、発売後1週間もたたずに増刷が決まった。
AV女優と純文学――。性や表現について真摯に語る紗倉さんへのインタビューから、この2つの仕事を結ぶ線がうっすらと見えてきた。
70代の「性のにおい」には安堵を覚える
――「春、死なん」は妻に先立たれて、息子夫婦と2世帯住宅に暮らしている70歳の富雄が主人公で、目の不調に悩まされながら、DVDを見ては自慰行為にふける孤独な日々を送っています。ご自身よりもはるかに年長の男性の性を描いたことに驚きました。
紗倉 AVをリリースするときのイベントに、50~70代の方々が来てくださることが多いんです。エロ本を買ってくださるのも高齢者と呼ばれるその層の方々がメインだと聞きます。作品に東京オリンピックに向けたコンビニの「エロ本規制」のくだりも書いたんですが、「じゃあ、エロ本がなくなったら、その方々はどう性欲を処理するのかな?」って、ずっと興味があって。書きたい題材だったんです。
――70歳も性的にはまだまだ現役です。
紗倉 はい。父親や祖父くらいの年代の人に「性のにおい」があったら嫌だという女性は多いかもしれません。でも私は全く違って……。昔、父の部屋にAVが置いてあるのを見つけたときにも、そんな性の一面があることにむしろ安堵を覚えたんですよね。性欲も、食欲や睡眠欲と同じように、逆にないと不安になってしまうもの。人間として欲望が尽きないほうに魅力を感じるんです。
実は富雄はいまの自分の延長上にある人物として描いたんです。欲望は変わらずある。そして、どこかに孤独やさみしさを抱えている。自分の中に消化しきれないモヤモヤを抱えていて、揺れている人物。私自身、全然友達もいないですし、このまま年老いたら、どう生活していくのかなって。誰からもずっと相手にされなくなってしまうとしたら、どうなってしまうんだろうと。男性だけれど、数年先の自分を思い浮かべるくらいの感覚で富雄を見ていました。