監督のことを怖れていないチームは強い
元永 〈金足農業の野球は前時代的だった〉とも本にありますが、監督に対して「あいつに何も言わせなくしてやるよって感じでした」って言える選手たちは、たくましいなと。『野球と暴力』にも書きましたが、「はい!」「大丈夫です!」って返事するだけのコミュニケーションをすることが、野球界だと多いじゃないですか。
中村 この学年(吉田輝星の代)は、はっきり主張していましたね。元永さんの本の中に済美の上甲正典監督時代の厳しさが書かれていましたが、2004年春に優勝、続く夏に準優勝した頃の選手は、エースの福井優也を筆頭に、監督のことを怖れていませんでしたよね。効率的ではないですが、とんでもなく厳しい練習を課せられるチームは、それを乗り越えることのできる代が出てきたとき、とんでもなく強いチームになるのかもしれません。指導者が見てないところで、うまく手を抜いたりする感じは、全盛期の済美と、甲子園に旋風を巻き起こした金足農業と、似ていますね。
元永 たくましさとか、したたかさがないと、潰れていくこともあるでしょうね。
中村 おもしろいのは、金足農業が準優勝して、地元もあれだけ盛り上がったんだから、その後、いい選手がどんどん入ってきて、部員も急増すると思うじゃないですか。でも、実際はそんなことはなかったんです。
元永 それは、金足農業の野球部が特殊すぎるから?
中村 やっぱり厳しいは厳しいので、秋田の中学生からしたら、金足農業で野球をやることに抵抗があるようです。でも、指導者もそれでいいと思っているんですよね。「下手でも本気で金農で野球をやりたいと思ってるやつらの方がいい」って。