2018年夏の甲子園を沸かせ、一大フィーバーを巻き起こした「金足農業」ナインの素顔に追った『金足農業、燃ゆ』を刊行したノンフィクション・ライターの中村計。体罰や暴力指導など、連綿と続く野球界の閉鎖性と、そこから脱するチームのあり方にせまった『野球と暴力――殴らないで強豪校になるために』の著者・元永知宏。二人が、金足農業について、高校野球指導について語る。

#1を読む】

元永知宏さん(左)と中村計さん

暴力指導の根深さはどこにあるか?

中村 今回、元永さんが『野球と暴力』という本を書かれた動機はなんだったんですか。

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元永 以前に『殴られて野球はうまくなる⁉』(講談社+α文庫)を書いたときは、終息していく過去のものとして、「野球界における暴力」を捉えていたんですけど、まだ全然終わらないなと。

元永知宏さん

中村 読みながら考えていたんですけど、あとがきで書かれている、監督が選手に暴力を振るった不祥事に対して、保護者の方が言った〈「熱心に指導してくれる、いい監督さんやったんです。暴力は悪いことなんでしょうけど、やっぱりダメなんでしょうか」〉という発言が、まさに野球界から暴力がなくならない理由なのかなと。ある意味、「悪い指導者」ではなく、「いい指導者」だから、暴力を振るってしまう、というか。暴力はもちろん絶対ダメなんですけど、案外、そういう監督ほど愛情が深くて、熱心だったりする。そこが厄介なんですよ。周囲も「いい監督だから」ってことで逆に庇ったりするので、なかなか露見しない。高校野球における体罰というと、勝利至上主義に毒された監督が、怒りに任せて選手を殴るというイメージを持たれがちですけど、今の時代、そんなことをしたら一発退場ですから。そんな監督は、もうほとんどいないと思います。

中村計さん

元永 殴って勝てるようになるわけでもない。甲子園は夢のまた夢という高校も多い中で、なんで暴力が入る余地があるのって。本当に理解できない。

中村 高校野球を取材していると、おそらく一生、甲子園に出られないだろうに、なんでこんなに一生懸命になれるんだろうと思える指導者がたくさんいて驚かされます。世界中に、こんなに熱心な指導者がたくさん集まってるスポーツってあるのかな、と。その一生懸命さが、ときに悪い方向へいってしまうんじゃないですかね。