2018年夏の甲子園を沸かせ、一大フィーバーを巻き起こした「金足農業」ナインの素顔にせまった『金足農業、燃ゆ』を刊行したノンフィクション・ライターの中村計。体罰や暴力指導など、連綿と続く野球界の閉鎖性と、そこから脱するチームのあり方に迫った『野球と暴力――殴らないで強豪校になるために』の著者・元永知宏。二人が、金足農業について、高校野球指導について語る。
「センバツ」開催中止を受けて
元永 本題に入る前に、センバツが中止となりましたね。本当に残念ですが、この決断によって、高校野球自体も、選手や高校も、おかしなバッシングにさらされなくてよかったという気もします。
中村 開催しようとしまいと、高野連叩きが起こるのは気の毒ですよね。あっさりと中止にしたほうが楽だったはずですからね。高野連としては、最後まで本当に選手のために考えた末の決断だとは思います。
元永 もし「選手が感染しました」ってなれば、「それ見たことか」と絶対に言われるし。もちろん球児のことを思うと、やってほしかったですけど。難しいところですよね。
中村 ただ、どこかでこの自粛ムードも切り替えないといけない時期は来るんじゃないですか。そういう意味では、甲子園をやらないことのインパクトは大きいでしょうね。
元永 甲子園に手が届いているのに行けないっていうのは、本当に可哀そうだけど、「国の一大事です、国難です」って言われたらね……。「けしからん」ってムードも強くなっていましたよね。あるスポーツ紙でアンケートを取ったら、6割くらいは開催に反対だったようです。ただ、「野球だけが特別なのか」という批判もあったけど、それぞれの持ち場で責任のある人がジャッジしているわけだから。野球は野球で責任のある人がやっているんだから。それは、「野球だけが特別なのか」って話ではないでしょう。高野連が叩かれたり、甲子園という存在が批判されたりすることに対しては、どう思いますか。
こんなによくできている大会はない
中村 もちろん悪い面もあるんでしょうけど、こんなによくできている大会ってないと思っていまして。逆に、他の競技は何で真似しないのかなって思うくらいに、いい部分もたくさんあるんですよ。一例ですけど、取材機会がこんなに整っているスポーツイベントって他にはなくて。試合前と試合後にしっかりと時間を取ってくれて、すべての選手に話を聞けるような場を用意してくれる。なので、一人で取材している地方紙の記者やフリーライターでも深い取材ができて、内容の濃い記事が書ける。その結果、読者は高校野球に関心を持つようになる。なので、センバツが無観客で実施されそうな方向で動いているとき、取材方法もかなり制限がかかりそうだったので、そこは寂しいなと思っていました。
元永 僕らみたいなフリーの立場でも、パスさえ持てば聞かせてくれますよね。
中村 箱根駅伝は、見せ方とか報道の仕方に関して、甲子園のいい面を取り入れたのかなと思うところがありますよね。なので、近年、すごい盛り上がりを見せている。