「僕ら凶悪な集団だと思われてるんで」
元永 秋田の人はみんな、金足農業の校風とか、野球部の伝統とかを知っているんでしょう。そこをわかったうえで入るのと、入ってから驚くのとでは、違うでしょうね。逆に表でイメージされているのと、実際とが乖離していると、問題が起きそうな気がしますね。
中村 僕の中でずっとフラストレーションになっていたのは、世間が選手に対して過剰に「高校球児らしさ」を求めることです。礼儀作法とか、容姿とか。それは実に小さなことだと思っていて。あの年代だったら、生意気だったり、世間知らずな方が、ある意味、健全じゃないですか。金足農業の選手たちは、そういう部分が残っていて、とても新鮮でした。もちろん礼儀正しいのは悪いことではないのですが、たとえば取材に行ったときに、わざわざ練習を中断し、一斉に挨拶されたりすると、ほんと、心苦しくて(笑)。そんなに気を使わないでください、と。
元永 甲子園で取材を受けている吉田くんが、「子どものときは、木登りが好きでした」とかって、得意げにしゃべっていて、高校生らしくていいなって思いましたよ。
中村 秋田で当時の3年生たちに初めて話を聞いたとき、吉田君が「僕ら凶悪な集団だと思われてるんで」って言ったんですけど、そういう彼らがまったく凶悪に見えなくて。思わず吹き出してしまいました。そもそも、本当に凶悪な人は自らそうは言わないでしょう。そういう彼らの奔放さを、おそらく監督とか大人は快く思ってないところもあったのですが、少なくとも僕は彼らと接していて、嫌な感情を抱いたことは一度もありませんでした。天然素材のままのような選手たちで、みんなたまらなくチャーミングでしたから。
写真・鈴木七絵/文藝春秋
【#2を読む】