金足農業の野球は「古い」「厳しい」
元永 暴力を振るったら問題になるってことは、わかっているはずなのに、なぜするのって思いますよね。金足農業を追う中で、指導についてはどう思ったんですか。
中村 おそらく世間的には、金足農業の野球は、「古い」とか、「厳しい」とか、むしろ、いいイメージを持たれない部類のスタイルだと思うんです。去年、大船渡の佐々木朗希フィーバーのときも、彼が岩手大会の決勝で登板を回避したことによって、大船渡は正しい、むしろ、去年の金足農業の方がやり過ぎだって空気になりましたよね。吉田君は地方大会から甲子園準決勝まで全試合、先発完投しましたから。でも、僕はいい悪いは別として、「高校野球はパワハラだ」みたいな言い方をする人たちが、正義はこっちにあると信じて疑ってない感じが気持ち悪くて。自分の中では、改めて金足農業の存在が輝きだした感じがありました。この方法で勝つチームもあるんだ、と。強いだけじゃなく、彼らは本当に野球を楽しそうにやっていましたから。僕はみんながみんなこういう指導をするべきと足並みをそろえる必要はまったくないと思っていて。むしろ、いろんな野球観があるから楽しいし、ここまで盛んになったのだと思います。暴力は絶対NGですけどね。
元永 吉田君が5試合完投して、決勝は打たれて代わりましたけど、地方大会からほぼ最後まで一人で投げ切った。本人としては、完全燃焼なんだろうけど、それを「けしからん」と思う人はいますよね。
中村 基本的に高校で野球をやるには、高野連に所属するしかない。なので、大学のサークルのようなチームから、セミプロのようなチームまでが、一緒に戦う。いわば、無差別級なんですよ。なので、大学野球リーグとか社会人野球リーグのように似たレベルのチームが集まっているところと違って、こういうルールをつくりましょうとしたとき、みんながみんな「いいね」とはならない。でも、そこが魅力的なんですよ。「高校野球はこうあるべき」という枠をはめることは無駄だし、つまらないと思いますね。
元永 球数制限自体については、どう思いますか?
中村 そこも公立のように選手層のうすいチームは当然、反対しますよね。ただ、僕は不思議に思うのは、球数制限を設けることの前提として、「勝利」と「投手の体を守る」ことは相反することだという認識がありますよね。でも、そこは両立できると思っているというか、両立できるチームが勝てるチームだと思っているんですよね。どんなチームでも一人に頼っていたら、普通、どこかで負けますよね。金足農業も、準優勝したことは快挙ですが、最後は負けましたから。もう一人、投げられるピッチャーがいたら、決勝も大阪桐蔭にあそこまでの大敗(●2-13)はしなかったと思います。勝とうと思ったら、自然と複数投手制になる。なので、理想は、そこも監督に任せる方がいいとは思っていたんですけど。でも、やっぱり難しいのかな。