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“伝説のハガキ職人”が「漫才やコントより奥深い」落語でリベンジ

ツチヤタカユキ(作家)――クローズアップ

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「着信御礼!ケータイ大喜利」「オードリーのオールナイトニッポン」などで“伝説のハガキ職人”と呼ばれ、その後お笑いの世界に飛び込んだツチヤタカユキさんが、落語を初めて書いたのは4年前、26歳のときだった。

「投稿していた番組の縁で声がかかり、東京に行って構成作家見習いをしていました。ですが、生来の“人間関係不得手”でうまくやれず、結局身体も壊して逃げるように大阪に帰りました。バイトの面接にも落ち、どん底でした。

 そんなとき、ふと立川志の輔さんの『浜野矩随(はまののりゆき)』を聞いたんです。売れない腰元彫りが死ぬ前に最後に作った作品が評価されるという人情噺で、自分の境遇と重ね合わせました。落語に関心を持つようになって、そうだ、お笑いをあきらめる前に、最後に落語に挑戦しよう、そう思ってコンテストに送ったんですが、落選。一旦踏ん切りをつけるきっかけになったんです」

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ツチヤタカユキさん

 初めて書いた落語は寿司職人の幽霊が出てくるというものだった。

「職人の幽霊が現代の鮨を見たいというので回転寿司に連れて行くと、『何で回っとるんや』『何でケーキが』などと困惑するという話でした(笑)。今から思えばコントでもできる内容。落選するのも当然でした」

 その後ツチヤさんはお笑いの世界を離れ、小説『笑いのカイブツ』『オカンといっしょ』を発表した。

「小説を書いたことで、以前足りなかったものに気がついたんです。漫才やコントはお客さんを爆笑させることがゴール。そこにいたる道には、実は法則があって、それを理解すれば書くのはそれほど難しくはなかった。それはそれで面白いしやりがいもありましたが、落語はもっと奥深い。一瞬の笑いだけでなく、小説同様、人間を描きこまないといけない。それがわかって、4年ぶりにリベンジに挑むことにしたんです」

 昨年、落語協会のコンテストに応募した新作落語「最悪結婚式」は、佳作に入賞、手ごたえを感じた。その様子はNHK「おはよう日本」などで放送され、大きな反響を呼んでいる。

「最悪結婚式」は、夫婦が甥の結婚式に到着すると、なんと花嫁が元カレに連れられ逃げてしまったところだった、というところから始まる人情噺。プロットを決めてからは2時間で書き上げたというツチヤさん。来月大阪で開かれるイベントでは、2本の新作人情噺を発表する。

 林家木りん、桂團治郎が演じ、自身も前説やトークなどで舞台に立つ予定だ。ファンの前で喋るのは2年ぶり。

「たくさん落語を観て聞いて学びました。笑いもあれば人間の愚かさを描く物語もある、なんでもできる懐の深さを感じています。今後も落語ならではの笑いを追求していきたいと思っています」

ツチヤタカユキ/1988年、大阪生まれ。元ハガキ職人、元構成作家見習い。人間関係不得手。著書に『笑いのカイブツ』(文春文庫)『オカンといっしょ』(文藝春秋)がある。

INFORMATION

『死んでもやめねえよ! ~林家木りん×桂團治郎×台本ツチヤタカユキ=新作発表落語会~』
4月23日 ロフトプラスワンWEST(大阪) イープラスでチケット発売中
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/141708

“伝説のハガキ職人”が「漫才やコントより奥深い」落語でリベンジ

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