戦争を実感したのはいつか――。2018年に亡くなった女優の赤木春恵さんにとって、その日は昭和20年8月9日だったという。満州の関東軍を慰問する劇団にいながら、終戦直前の、ソ連軍が侵攻を開始した日を挙げたのだ。

 戦下ですら肌に触れて初めて戦争を実感する。これは、ジャーナリストの堀潤さんが戦争証言を遺すための取材で得た、次世代への教訓だろう。

堀潤さん ©8bitNews

 その堀さんが取材、監督、ナレーションなどを務めるドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』がポレポレ東中野で公開されている(全国順次公開)。

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「この10年、社会のなかで『分断』を感じることが増えてきました。原発事故での国や東電と住民との間で深まったものや、辺野古への米軍基地移設の賛否で割れる沖縄。国外では香港学生デモやシリア内戦などもそうです。分断のまっ只中で生活する人たちは、“処方箋”が必要なほど傷ついていると感じるのです。その溝は、やがては差別や排斥、対立に拍車をかけるのではないか。もう客観的な報道で問題提起しただけでは済まないところまできている、そう思うようになり、自ら当事者になって声を上げるための取材を続けてきました」

 2013年にNHKを退局した堀さんは、福島、沖縄、さらには日朝学生交流、パレスチナや香港の学生デモなど、分断の最前線を5年にわたり記録し続け、本作にまとめた。

「無自覚や無関心な社会が、誰かを孤立させたり分断を生んでいるのかもしれません。もちろん、単に知らないだけかもしれない。いまは自分の生活を維持することに手一杯の時代です。でも、不幸の加担者にならないために、カメラに向かって語る人々の訴えに耳を傾けてみてください。そこから、国や民族ではくくれない、普遍的な問題が見えてくると思います」

 私たちの日常に何が起ころうとしているのか。そのことに触れる機会となろう。

ほりじゅん/2013年NHK退局。ジャーナリスト、キャスターとしてテレビ、ラジオに出演するほか、執筆活動も精力的に行っている。

INFORMATION

映画『わたしは分断を許さない』
https://bundan2020.com/