北区――王道と邪道、古典と新作
北区は2種類それぞれ1枚だ。王道と邪道、古典と新作。真逆の選出となっている。すごいセットできたぞ、北区。1枚目は、北区田端に設置された田河水泡の代表作「のらくろ」の蓋だ。
王道。わかりやすい。安定感がある。のらくろの周りの配色は、カラーバリエーションを増やせそうな感じなので、今後にも期待が高まる。
設置されている場所は、田河水泡の旧宅と田端駅北口前にある田端文士村記念館の間だそうだ。今後、のらくろ蓋を増やす場合は、田端駅と記念館、旧宅のルート上に配置して街歩きの観光資源にしてほしい。
のらくろといえば、江東区が頑張っている。田河水泡が幼少期から青年期までを江東区ですごした縁で「田河水泡・のらくろ館」がある。森下の商店街が「のらくろード」と言って街おこしをしている。余計なお世話だが、江東区がどう思っているのか心配だ。
のらくろを描いていた当時の田河水泡の住居は北区田端だから、北区がのらくろ蓋を設置する理由はある。でも、今までたいして「のらくろ」に注目していなかったのに、急に蓋を作った。そこに後ろめたさのようなものを感じる。せっかくなので江東区にも、のらくろ蓋を作って欲しい。お互いに作ってコラボレーションできたら、素敵だ。
踏まれることも考えてデザインされている
2枚目は、清野とおる蓋。壇蜜と結婚したことが話題となった、赤羽在住のマンガ家だ。
すごい蓋だ。清野とおる本人の蓋だ。両手を頬に押し当てて左目がウィンクしている。さらに、踏まれることも考えてデザインされている。
踏まれている時と踏まれてない時の両方で成立する優れたデザインだ。踏まれている時は、踏まれている足によって顔が歪んでいるように見える。踏まれていない時は、清野さん自身の両手が顔をおさえているようにデザインされている。すごい。アイデアの勝利だ。
踏まれることがマンホール蓋の前提だが、それをデザインに落とし込んでいる蓋は初めてだと思う。この“発明”を解説できることに興奮する。すごい。踏んでいる足も含めてデザインすることによって、踏んで完成している。
この蓋は、踏まれた時にどう面白くなるのかという、市民との関係性がデザインされている。美しいだけのデザインではないことにハッとした。蓋と市民によって完成するデザインだ。踏んでいない時も成立するデザインにもなっている。素晴らしい。
さらに、この蓋は時間がたって汚れていっても、それはそれで味になっていくと思う。汚れから、踏んだ市民が見えてきて面白くなるはずだ。たとえば、触るとご利益がある彫刻がツルツルになる。ツルツルにした多数の市民のかかわりが見えて面白い。同じことがおきると思う。ツルツルになるだけでなく、カラー樹脂がボロボロになって欠けたりもするだろう。何年、何十年か時が経過したら、市民がかかわった時間もデザインとしてこの蓋に効果的に入るようになっている。重ね重ねすごい。
マンホールカード配布場所
赤羽エコー広場館(東京都北区赤羽1-67-62)
配布時間:10時~17時(水曜、祝日、年末年始 お休み)