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街角で挨拶代わりの「ハグとキス」

 3月7日付の「パリジャン」紙の社説は、「黄色いベスト運動と年金改革の過ちによって粉々になったと言われたフランス、支配者への不信と何でもありの陰謀論への誘惑で扇動された祖国は、集団の美徳を取り戻したようだ。(中略)当初の脱線―フェイクニュースの拡散、人種差別主義的な逸脱―は、市民的態度に取って代わった」と書いており、私もその通りだと思った。

 しかしその時点ではまだ、新型コロナの脅威は侮られていたのである。“外出禁止令”が出される直前まで、私が近所を歩いていても街角で挨拶代わりのハグと頬にキスをしている人も見かけた。

3月15日、挨拶代わりに、ハグと頬にキスする2人。

 長距離の移動を控えるように、ともフィリップ首相は言っていたが、南仏に向かうリヨン駅に行くと案外ごったがえしていた。テレワークするので「パリの狭いマンションにいる必要がないから」と田舎の別荘に行く人、子供を実家に連れていく人……。

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3月16日、リヨン駅は案外混雑している。出発案内の横には予防行動の掲示も。

 路地ビストロの前には山のように卵が積まれ、「ご自由にお持ちください」とあった。フィリップ首相の演説を聞くまで何も知らされていなかったので、通常通り営業するつもりで仕入れたのだという。警察は、店が営業していない状態を確認するために見回りを行っていた。

3月16日、閉鎖しているビストロの前には「ご自由にお持ちください」と卵が。

「日常」は終わった

 スーパーには空っぽの棚もあった。トイレットペーパーや水など、特定のものだけがなくなっているのではなく、生活必需品全般にわたっている。スタッフが総出で補充していた。イタリアやスペインのように外出禁止になるかもしれない、という思いで備蓄した人が多かったのだろう。

 そして予想は当たった。

 17日正午。「日常」は終わった。

 禁止令発効前にスーパーへ客が殺到する映像を放送した先の番組でも、「全体として、フランス人は冷静に受け止めている」というコメントが紹介されていた。非常事態下で、今のところ「市民的態度」は発揮されている。

写真=広岡裕児