それでも53000人が“違反外出”「ジョギングもやめてほしい」
疲弊しながら闘っている医師や看護師の様子は報道やSNSなどで出回り、「彼らに負担を掛けるな!家にいろ!」と呼びかける声は増えた。そしてリスクを背負って仕事をしているというなら、スーパーマーケットの従業員だってそうだ。デマに踊らされて突発的にものが消えたところもあるが、概ね流通は保たれ生活必需品には困っていない。しかしその影にも努力と犠牲がある。「オレにも病気持ちの父親がいるから、家では離れてるよ。これは凄く辛いことだ」とカターニアの大型スーパーに勤める友人のベニーは語っていた。
だがそれでも、外に出る人は出る。用もなしに出歩くこと自体が警察の厄介になる案件だというのに、理由が証明できず19日までに53000人もの人々が法令遵守の違反とみなされた。特にミラノでは市民ランナーの数が非常に多く、感染者も19日にだけで300人以上増えた。ロンバルディア州のアッティリオ・フォンターナ知事は同日TVのインタビューに応え「ジョギングも自転車に乗るのもやめてほしい。国には生活必需品を扱う分野を除いたオフィスも工場も全て閉めるよう要求した」と語り、「厳しい訴えを聞いてもらえなければ軍隊の出動を要請するしかない」とまで言った。
「人の生活を全部止められるのか、ということに私はずっと懐疑的なんです」。先述のマルタさんは語った。「国が厳しい規則を急に決めたからって守れるものでもない。こういうときには個人がちゃんと自覚を持って、ほんの少しでも社会へのリスペクトが持てたらいいんですけど、私たちはその点で弱みがある。(完全な移動制限が敷かれる)何週間か前、リスクがあると言われていたお年寄りはたくさん出歩いてたし、地下鉄も人が減ってないし、若者もたむろしてタバコ吸ってたし、私だって無自覚に職場の仲間と誕生パーティーをやった。そうかと思えば逆に、スーパーでは買い占めで水がなくなる。ミラノの水道水は飲料ができるっていうのに」
医療の機能性と健康を守るために大半の経済活動を止めざるを得なくなった、福祉国家としての極限状況。イタリアは国民を挙げて意識を変えることができるか。”弱み”の克服を突きつけられた、文字通りの闘いなのだ。