「三津って嫌われていたんですか」と松下さんに聞いたら……
――そうでしたか。
水橋 全然知らなかったんです。三津がかわはら工房から去った週に、内田さんが「最終的には三津を好意的にとらえてくれた人が多くて、ほっとしました」とメールをくれて、それで私は初めて「えっ、受け入れてもらってなかったの?」ってびっくりして。松下さん(八郎)に「三津って嫌われていたんですか」と聞いたら、「そうなんですよ。もう2人きりになるだけで……」とか仰ってて。もう一度「えっ」と(笑)。私としては、そのシーンをずっと前に書いているので、どうにもならないんですけど驚きましたね。
――そんなふうに俳優の方々と、ちょっとお話しされることもあったんですね。
水橋 いえいえ、ほとんどないです。ただ、大阪には8カ月近くいたから偶然ロビーやスタジオ前で顔を合わせることもあったんです。セットを見に行った時に、喜美子を演じた戸田恵梨香さんがお見えになったのでご挨拶したり。それから近くのコンビニで「あれ、福田さんじゃないですか?」って福田麻由子さん(川原百合子役)とばったりなんていうことも。「ホン(脚本)、大丈夫ですか?」って立ち話をしたり。
私が滞在していたのは、打合せに呼ばれたらすぐに行けるようにとスタジオに近いホテルで、他にも出演者の方が泊まってらしてたと思うんですけど。ロビーで財前直見さん(大野陽子役)に「初めまして」とご挨拶したこともありますし。でもそういうことは、ほんとたまたまです。後半はどこにも行かずに誰にも逢わずに黙々と書いていました。書くのは楽しいので苦ではないんですけど、私だけ、まったく別世界で生きているなあと思ってました。朝ドラの脚本を書くのは孤独なマラソンのようなもので、走り続けている間も、誰よりも先にゴールテープを切る時もたった1人でした。
常治との別れを北村さんに一任した
――他のキャストの方々やキャラクターについてもお尋ねしたいのですが、喜美子の父・常治を演じた北村一輝さんは、病身を表現するのにずいぶんお痩せになったそうですね。
水橋 8キロ痩せたと仰っていましたね。朝ドラはたとえば48歳のシーンを撮った翌日に31歳のシーンを撮る……みたいな感じでどんどん撮ってゆくと聞いていました。だから8キロも痩せられると繋がらなくなるシーンが出てくると思うんですが、それが出来たというのは、スタッフが順撮り(時系列に沿って順番に撮影すること)になるよう、うまくスケジュールを組んでくれたんだと思います。北村さんの役者魂に皆が持っていかれたといいますか、私も含め、皆が常治との別れを北村さんに一任したようなところもあったんじゃないでしょうか。それほど、常治という役になりきって、慈しんでくれていました。