韓国最南端にある済州島。済州空港からひたすら東へ、バスに揺られて1時間ほどの場所に、オジョリという村がある。小さな村だが、ユネスコの世界遺産として知られる、日の出が美しい、王冠のような火山「城山日出峰」を望む豊かな地だ。そして、ここに、韓国でいちばん有名な猫が住んでいる。

 そのインスタグラムには19万人のフォロワーが集まる、元ノラネコの白猫ヒックだ。そんなヒックに会いにオジョリに行ってきた。

HEEK NE JIP ⓒ2017. Sina Lee(イ・シナ)

里親の話が二度も流れ……ヒックとの不思議な“猫縁”

 ヒックと暮しているのは民宿を営む、イ・シナさんだ。知り合いのゲストハウスで働いていた時に、庭の「猫食堂」にごはんを食べに来ていたのが、ノラネコのヒックだった。

 玄関の引き戸を開けるとヒックが眠たそうな顔をしながら奥の部屋から出てきた。「にゃおん」と足下をぐるりとまわると、ついてきて、近くの日向でごろん。自由だなあ。そんなヒックを見ながら、ふたりで話を始めると、今度はすうっと別の部屋に入っていった。「お昼寝タイムなので」とイさんが笑いながら言う。

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「ヒックの里親探しを始めた時に二度も話が流れたんです。今でも、ふとした時にそれを思い出して、ヒックとの縁は、本当に不思議な“猫縁”だったんだなあって、しみじみ思い出すことがあります。ヒックの本を出してから、周りが大きく変わりましたから」

イ・シナさん提供

もしかしてヒトですか? そう思わせる、絶妙な表情

 わたしがヒックのことを知ったきっかけはイさんが書いたフォトエッセイ『ヒックの家』(邦題『しあわせはノラネコが連れてくる』)だった。

 真っ白でもふもふとした毛並みに、少しもっちりとしたボディ。もしかしてヒトですか? そう思わせる、なんとも絶妙な表情をした白猫の表紙に思わず目が留まった。

『しあわせはノラネコが連れてくる』(文藝春秋)

 2年前、書店をぶらぶらしていて遭遇した『ヒックの家』は静かなベストセラーになっており、平積みされていた。ちょうどその頃、猫人気が顕在化しており、猫の関連本はその前の年と比べて17倍にも増えたというニュースを韓国メディアで知って驚いたが、それから今日にいたるまで、テレビ番組や広告など、猫の露出は年を追うごとに増えている。