昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/03/30

捨てられた過去があるんじゃないかな

「白い猫は済州島では珍しいんです。だから、どこかの家猫かと最初は思いました。それにヒックは飛び抜けて人懐こかったので、捨てられた過去があるんじゃないかなあと今でもぼんやり思っています」

 当のヒックはそんな過去があるのかないのか、どこかとぼけていて、人が大好きで、機嫌がいいと犬のようにしっぽをぶんぶんとふるそうだ。

 イさんの民宿兼家は木造で、中に入るとレトロな雰囲気で味わい深い。どこか日本の古民家にも似た趣きだ。そんな家も気に入っているが、イさんが済州島に住もうと思った決め手は海だったそうだ。

イ・シナさん提供

「旅が好きで、韓国全国をまわりましたが、これほど澄んだ海は見たことがありませんでしたから。宿泊されるお客さんの多くの方に済州島はハワイ島に似ていると言われました。ハワイには行ったことがないのでわかりませんが、同じ火山島なので似ているのかもしれませんね」

 済州島はハンラサンという火山からできた島で、かつては韓国国内の新婚旅行先ナンバーワンだったが、今は老若男女に人気のリゾート地。若い世代からも絶大な支持がある。

ヒックという家族ができて心強さが生まれた

 フォトエッセイをだしてから、イさんの肩書きは、ヒックの父さん(ちなみにイさんは女性)、民宿経営者、作家と増えた。

イ・シナさん提供

「一番しっくりくるのはうーん。民宿を営むのは、掃除も好きなので、天職だと思っていますが(笑)。周りは激変しましたが、日常生活はヒックとふたり、まったく変わりません。唯一変わったのは、ヒックと暮すようになってから気持ちが安定したことでしょうか。前は将来にも不安でしたけど、ヒックという家族ができて心強いというか。プロスポーツ選手が結婚した時にいう台詞みたいですけど(笑)」

 家族を探していたノラネコ・ヒックと、希望を探していたイ・シナさんの出会いから家族になるまでが綴られた『しあわせはノラネコが連れてくる』(原題『ヒックの家』)には、悩み、考え、行動している、韓国の若い世代の等身大の姿も映し出されている。

しあわせはノラネコが連れてくる

イ・シナ ,菅野 朋子

文藝春秋

2020年3月30日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

この記事の写真(23枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー