『稲川淳二の怪談グランプリ』で優勝経験もある、オカルトコレクターの田中俊行氏。前回の「あべこべ」に続いて、怪談「終電」を書き下ろします。あるサラリーマンの身に、実際に起きた“悲劇”。その衝撃の一部始終とは――。
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これは10年程前、都内に住む男性サラリーマンが体験した話である。
その日、彼は仕事でミスをして、夜遅くまで一人で残業することになってしまった。退社できたのは終電間際。オフィスを出ると、電車を逃すまいと急いで駅へと向かった。
何とか終電が来る前に駅のホームに到着した彼は、乱れた息を整えながらベンチに腰を掛けた。この時間だからか、自分以外、周りには誰もいない。「間に合って良かった。タクシーで帰ると料金が馬鹿にならないからな……」
突然駅員に告げられた“ホーム変更”
ホッとしながら、すぐに来るはずの電車を待っていると、改札から続く階段を、男性駅員が走って上がってくるのが視界に入った。その駅員は走りながら、じっと彼を見つめている。
何事かと思って見ていると、駅員は彼の目の前までやって来て、「すみません、こちらのホームには、電車は来ないんですよ……」と告げた。思わぬ話に少し驚きつつも、何かのトラブルでホームが変更になったのかな、などと彼は思った。
「ああ、そうなんですね。何番ホームに行けば良いんですか?」
そう問うと、駅員はボソッと「付いて来てください……」と言う。
この駅員、なんだか愛想もないし、雰囲気も暗くて嫌な感じだな……。そう思いながらも、彼は後に付いていった。