先日、「向こうで映画見るけどあなたもどう?」元カルト信者の私が『ミッドサマー』に覚えた既視感という記事を書いたところ、予想以上に多くの反響を頂きました。「文春オンライン」編集部より「『百合について知りたい』との声があがっている。エッセイを書いてもらえないか」との依頼があったので、今回は元カルト信者の私の目を覚まさせた百合作品についてお話したいと思います。

プライベートがないカルト宗教の日々

 前回の記事でも書いた通り、冬休みの間に研修旅行に参加しすっかり信者としての心構えが出来てしまった私は、同じく大学で勧誘された学生や信者の二世が住む寮に入寮しました。大学生なので講義に参加するのは勿論ですが、それ以外の時間は伝道活動をしていました。

 伝道活動とは同じ大学の学生をカルト宗教に勧誘すること。 大学周辺の横断歩道やスーパーの前に立って、一人で歩いている学生に声を掛けます。見ず知らずの相手なので多くの場合断られ、私が声を掛けた中では最後までカルト宗教に繋がった人はいませんでした。

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 伝道活動はほぼ毎日夕方まで行い、そして夜はカルト信者の寮長と寮生の全員で食事をして、祈祷や教義や聖書の勉強をし、同じ部屋で就寝します。

 まさに『ミッドサマー』のホルガ村のようにプライベートが殆どない生活です。

 奨学金や親の仕送りも、寮費や研修費として教団に渡すように言われていたので、自分の為に使うお金もほとんどありません。そして、教団の教義では教団の外の文化は悪魔によって堕落させられた人たちが作った悪の文化とされていたので、教団が認めたもの以外は見たり聞いたりしてはいけないことになっていました。つまり、私は好きに本を読んだりテレビを見たり、パソコンを使ったりすることが出来なかったのです。

ガラケーでつながった百合の世界

 寮生が所有できるのは最低限のお金と教祖の言葉集、Amazonの売れ行きランキングを1位にするために組織的に購入させられた教祖の自叙伝と連絡のための携帯電話。こうした特殊な環境下で、私は百合に出会うことになりました。

 当時はスマホが普及しておらずガラケーが主流。Wi-Fiも普及していなかったですし、ガラケーで動画を見ると、携帯用に動画を変換するのに時間がかかる、当時人気があったニコニコ動画を見るときは決定ボタンを連打する必要があるなど、とにかく不便。よって、ネット配信の番組を携帯電話で見ることはできません。当時は電子書籍や漫画のネット連載も存在しませんでした。

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 前述の通り、見るもの聞くものを制限されているので、世間で出回っているようなアニメや漫画、小説などに触れる機会も皆無。そこで必然的にガラケーからでも見ることが出来る、二次創作の「百合」に出会ったわけです。