「ヤバい世界のヤバい奴らは何食ってんだ!?」
テレ東深夜の単発番組としてスタートしながら、“他じゃ絶対にありえない"その内容で視聴者に衝撃を生んだ人気番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』。人食い少年兵、マフィア、カルト集団……数多の危険と困難を乗り越えた先の取材で、「食」を通じて世界のリアルを伝えてきた。
ロシアのカルト教団・ヴィッサリアン教の村で出会った、信者のニコライ。贅沢な暮らしを全て投げ打って入信したという彼がそこまで神を信じ続ける理由とはなにか。番組制作の全過程を担う上出遼平氏が、未公開エピソードや危険すぎる取材の裏側をまとめた著書『ハイパーハードボイルドグルメリポート』から一部を抜粋して紹介する。
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「その見つけ方は教祖が教えてくださいます」
「あなたが本当に素晴らしい人だということはよくわかります」ニコライは開いた両膝に両肘をつけ前に乗り出し、真っ青な目で僕をじっと見つめた。
「けれど、あなたはまだ真理を見つけてはいないはずです」
「はい」僕はぎりぎりニュートラルな返事をする。
「真理はあなた自身が見つけるしかないのです。しかしその見つけ方は教祖が教えてくださいます」
「………」
この人はいきなり何を言い始めたのだろう。ついに返す言葉を失ってしまった。
もしかして、と思い「僕も教団に入ったほうがいいですかね?」と聞くと、「もちろんです!」とニコライは喜びを隠しきれないというように両手を上げた。
「キューバ、ブルガリア、フィンランド、イタリア、カザフスタン、リトアニア、パキスタン…。世界各国の信者がいるのに、日本人だけがいないんです」
彼は実に残念そうに首を振った。
「今入れば、あなたが日本人のイチになれます」
実に淀みない流れで勧誘が始まったところで、食事にしましょうとマリーナが呼びに来た。
4回も5回も十字を切って
教団の食卓は昼も美しかった。
赤く輝くボルシチに、がっしりとしたレンガのような黒パン。小皿には漬物のようなものが何種類か並べられ、その隣には松の実が入った人参のラペが山盛りにされている。そしてそれらの中心に、ペチカから取り出されたばかりのジャガイモのオーブン焼きが鎮座した。
皮を剥かれて四等分に切られたジャガイモが鉄のパレットに行儀よく並んで湯気を上げている。それはまるで卵黄を塗って焼き上げたかのように黄色かったけれど、振りかけたのは塩だけだという。実に香ばしそうな狐色のジャガイモは、見ているだけで気分が満たされるほどだ。
蝋燭に火を灯し、全員が手を繋いで祈りを捧げる。
僕もイゴールも慣れたもので、もう途中で目を開けることもない。
民宿の時より幾分祈りが長かったように思う。皆が目を開け手を離すと、ニコライとマリーナが胸の前で4回も5回も十字を切った。何度も切られる十字は初めて見た。