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「私たちは完璧な人間になりたい」

「教祖の近くで暮らしさえすればその答えを知ることができます。教祖に会う必要もない。そばで暮らして、彼の教えが耳に届くようにしていれば自ずとわかるのです」

 やはりそう簡単には教えてもらえない。きっとそれは教えの根幹をなす事柄なのだろう。これで明確な答えが返ってくるようじゃ宗教が成立しない。

「私たちは完璧な人間になりたいんです」

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 マリーナが話を引き取った。暮らしは極めて自然主義的に見えるけれど、“ありのままでいい”という思想とは違うらしい。

「完璧な人間になるには、毎日を正しく生きなければなりません。完璧な母親であるためには、毎朝完璧に息子を愛さなければなりません。完璧な妻であるためには、毎晩完璧に夫を愛さなければならないのです」

 なんだか息苦しい話になってきた。完璧を求めていいことなんてひとつもないのに、と僕は思った。

 ふたりは完璧な夫婦なのだろうかと思い「夫婦喧嘩することはないんですか?」と聞くと、ふたりは顔を見合わせてから「ありませんね」言った。

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 大事なことは、とニコライは続ける。

「大事なことは、相手をよき方に変えたいと思った時は、自分が変わらなければならないということです。自分が変われば相手も変わります。いきなり相手を変えようとしたって無理な話です」

ヴィッサリアン教で「絶対にやってはいけないこと」

 ニコライが話し終わるのを待って、「教団にはルールがあるんですよ」とマリーナが話し始める。最初は寡黙そうに見えたけれど、実は話したいことがたくさんあったようだ。

「太陽の街には100人程度の信者が住んでいます。そして、教祖もこの街に住んでいます。だから我々100人は、この街が少しでも暗くなるようなことをしてはならないのです。例えば人の悪口を言うなんてことは絶対にやってはなりません」

「言うのはもちろん、頭にそんな思いが浮かぶだけでもいけません。口に出すか出さないかは重要ではなく、誰かに対してそういう感情が生まれてしまってはいけないのです」

 とニコライが付け足した。

「だから、理性を失わせるような酒や麻薬は厳禁ですし、タバコも禁止です。依存は平静な精神を保てなくさせます」

 するとイゴールが「自分で育てたタバコなら許されますか?」と大胆なジョークを飛ばし、普通の人間だったら万死に値するスベりを食らっていたが、本人はまるで気づいていない。

「けれど、どうしてもうまくいかないときもあります」

 ニコライは心から残念そうに言った。