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「インドカレーを全肯定してはいけません」水野仁輔と小宮山雄飛のカレー談義 #2

“カレーのプロ”とは何か?

小宮山 あとカレーの場合は、プロが作ったカレーか、アマチュアが作ったカレーか、という問題が出てくるじゃない? 

水野 そうそう。でも、これがまた難しいよね。プロとアマチュアの違いを一番分かりやすい定義で言うと、それでお金を稼いでいるかどうかっていうことだと思う。

小宮山 そうですね。

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カレーレシピ本をすでに2冊出しているけど“アマチュア”の小宮山さん

水野 ところが世の中的に、カレーに関する調理技術をしっかり持っているのがプロで、そうじゃないのがアマチュアだって、混同されてる。でも、実はそうじゃない。

小宮山 ほんとそう。

水野 調理技術が低くても、お金をもらっていればプロなんです。で、調理技術はメチャクチャ高くても、お金をもらってなかったらアマチュアなんです。そこは分けて考えなきゃいけないんだけど、みんな一緒にしてる。でもそれが今、本当にそうなの?っていう感じが出始めてるよね。なぜなら間借りとかで、メチャクチャうまいカレーが出てきたりすると、「あれっ、お店をやっている人がプロだと思っていたけれども、この間借りの人の方がおいしいかも」みたいになるわけじゃない? そこがぐらついてて、僕は今ちょっと楽しいんですよ。

小宮山 そこは楽しい? 

水野 僕は常にカレーの世界をかき乱したいから(笑)。ただ、もう一つ問題は、その「お金を稼ぐ」ことを続けられるのか、ということ。

小宮山 そう。そこね。

水野 単発で週1だけやったら、それはうまいものも作れるよと。毎日15年とか30年とか長いことやっているカレー屋さんがみんな言えずに黙っていることを僕が代弁すると、「お前にそれができるか?」っていうことなんですよね。もっと言うと、商売だしサービス業だから、自分が本当に作りたいカレーはあるけれども、この街のお客さんが求めているカレーはこっちだからとか、悩みながらやってるところも、やっぱりプロなんです。

小宮山 カレー屋さんでもそこを勘違いしてる人がいませんか? 要は、お店をやってるという意味ではプロなんだけど、「俺は腕がいいからプロなんだぜ」みたいな。だけど、それこそ2年後に辞めてたら、それはプロなのか?ってところはあるじゃない。極論を言えばカレーの味よりも、ちゃんとお金を計算してトイレも掃除して飲食店を長年続けていることのほうがすごいと思いますよ。

水野 そうなんですよ。それはカレー屋さんも混同してるんですよね。

小宮山 実際、水野君も今、週一でカレーのお店をやってるよね。

水野 僕が今、フードトラックを始めたメインの目的は、日本全国の食卓でスパイスカレーを普通に作ってもらえるような時代が来てほしいから。でも一方で、「東京カリ~番長」が史上最強のアマチュア集団だと言われていたことは嬉しかったんだけど、「カレー屋をやったらプロっていうなら、一回やってみるか」みたいな気持ちがある。さらに言えば、インド料理がほとんど注目されてなかった7~8年前ごろ、「水野はカレールーを使ったカレーのレシピ本とか出してるから、あいつはインド料理とかスパイスのことなんか何も分かってない」みたいなことを言ってる人たちが、インド料理マニアの間で何人かいた。

小宮山 そういうのがあったんですか。

水野 別に僕はそれでよかったの。みんなが喜んでくれることをアウトプットするわけだから。でも、僕は自分の中のパンク魂にちょくちょく背中を押してもらってるところがあって、そこで背中を押されたのは、そういうことを言う人たちが何も言えないぐらいのところまで、インド料理を極めようと。そこから6~7年ぐらい毎年インドに通って、日本でインド料理のシェフを集めて研究グループを作って、「LOVE INDIA」ってインド料理のイベントまで立ち上げて、どっぷりインド料理をやったんです。ただ予想外だったのは、インド料理が想像した以上に魅力的で、行ったら戻ってこられなくなりそうになったこと。ようやく去年ぐらいから「あ、ヤバい」と思って。

小宮山 我に返った(笑)。

水野 そう。僕にとってインド料理を学ぶことは手段だったはずなのに、目的になっちゃってると。僕はインド料理を勉強した上で、この武器を持って他にやりたいことがあったはずだと、ようやくハッとして帰ってきたけど、ここまで6~7年かかるから、インド料理の世界はほんと危険だよ。