炎上が嫌で書くのをやめてしまう
――杉本昌隆八段が『朝日新聞』に連載されていますが、定期的に文章を書いている棋士は、限られていますね。
遠山 昔はもっと自戦記を書く人も多かった気がするんですよ。『将棋世界』でも、自戦記より聞き書きが多くなったような気がします。
――掲載される媒体も減ったのでしょうか。
遠山 ブログなどがあるので、書こうと思えば媒体はあるのかもしれません。ただ、みんな炎上したりするのが嫌なのでやめてしまうんですよね。もっと書いて欲しいんですが……。
――エッセイストとしても人気の先崎学九段は、『うつ病九段』に続いて書きおろしの単行本を出されました。
〈元来、棋界随一の名文家と思っていましたが新著『将棋指しの腹のうち』はもう面白く味わい深く情に熱く、さすが! としか思えません〉(43歳/男性)
――遠山先生がもっと文章を書いて欲しいと思う棋士は誰ですか?
遠山 阿部健治郎七段が、将棋の歴史を調べたりしているんですよ。彼がnoteとか書いたら絶対に面白いと思うんですけどね。あと高野さん(秀行六段)は文章が上手なので、もっと書いてほしい。行方さん(尚史九段)も、昔は「ロックと将棋」みたいなエッセイを書いていて、文章もロックでかっこよかったです。
「書けば書くほど自分の足りないものが見えてくる」
――遠山先生が、文章を書くときに意識していることはありますか?
遠山 指し手の難しいことは書かないということですね。それ以外は特になくて、いつも必死です。書けば書くほど自分の足りないものが見えてくるので、今あるベストを出そうと必死です。
深浦 相撲にかけて書いたりしていますよね。
遠山 みんながわかる例えが欲しいんですよ。それがうまくハマればと思って書いていて、相撲ならみんななんとなくわかるかなと。前は、野球を例えにしていたんですが、意外とわからない人が多いので、今度は『鬼滅の刃』を使っています。
深浦 たしかに必死だね(笑)。
――やはりインタビューと、自ら書くものは違いますよね。
遠山 星野くん(良生四段)が文春オンラインで書いていましたよね。本人にしか書けないものになっていて、面白かったです。そういったものがもっと増えて欲しいですよね。
――そういう意味では、山本四段のnoteは、他の人には書けないものでした。インタビューだと、こちらの問いに答えることになって、内面的なことはあそこまで出てこないでしょうね。
深浦 これだけ注目されているんですから、山本くんにあげたいですね。
遠山 そして、期待の注目株は脇田さんということにしましょう。
受賞の言葉(山本博志四段):
観る将の皆様、いつもありがとうございます。
私も観る将ですが、私情が入るかと思い投票は控えました(笑)。嬉しく恐縮な気持ちです。将棋を観る文化は将棋界にとってとても大切です! 自分も楽しみつつ少しでも盛り上げに協力したいです。
写真=松本輝一/文藝春秋