3月末日をもって2019年度の将棋界は終わり、4月から新しい年度となった。将棋界の1年を振り返る企画としては、将棋連盟が主催する「将棋大賞」があり毎年「名局賞」や新手や妙手を顕彰する「升田幸三賞」などが贈られているが「観る将」の視点から、2019年度の将棋界を振り返ってみたらどうなるだろう――。

 そんな発想から、文春将棋で「観る将アワード2019」と題して「観る将的名局賞」や「ベスト解説&聞き手」などの部門においてアンケートを実施したところ、140通ほどの熱い回答をいただいた。

 そこで観る将ファンにもおなじみの深浦康市九段と遠山雄亮六段にゲスト審査員としてお越しいただき、各部門の選考を行う座談会を実施した。本稿では、アンケート回答を紹介しながら、当日の模様を“実況中継”していきたい。コロナウイルスの影響で不安なニュースばかり目にする日々だが、少しでもみなさんに元気を届けたいと思う。

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深浦康市九段と遠山雄亮六段

 では、さっそく「観る将的名局賞」の話から始めよう。もっとも投票が多かった項目で、113もの投票があった。

「観る将的名局賞」は豊島将之王位と木村一基九段の王位戦

――まずは「観る将的名局賞」から始めたいと思います。アンケートを集計したところ、もっとも票を集めたのは豊島将之王位と木村一基九段で争われた王位戦で25票でした。

遠山 最終第7局までもつれたタイトル戦ですが、なかでも票が集まったのは、やはり木村王位が誕生した7局目の決定局なんですね。

〈木村先生とファンが重ねてきた長い年月は、すべてこの一局に繋がっていたのだと思いました。終局後に見せてくださった涙と笑顔も、歴史に残る名シーンになったと思います〉(45歳/女性) 

〈タイトル初防衛のかかる豊島王位(当時)と、最年長で初タイトル獲得のかかる木村九段(当時)のフルセット最終局。長い夏の十番勝負のクライマックスとなる名局でした〉(35歳/女性)

〈将棋の内容も素晴らしく、その上で木村一基九段の積み重ねてきた棋士人生の重みにドラマを感じました。超えられない壁に何度阻まれようとも立ち向かい、ついに超えたその瞬間の感動と感激は、見ているだけの私にも言い表せない大きくて尊い何かのように思えましたね〉(38歳/男性)

座談会直前に放送されたNHK杯で初優勝を果たした深浦康市九段

女性の木村ファンが増えている

――木村九段がカド番で迎えた陣屋での第6局と、285手というタイトル戦での最長手数になった第4局にも票は入っていますが、最終局がダントツですね。

深浦 この対局を推している人には、女性が多いですね。

遠山 去年の10月に木村王位の誕生をお祝いした「観る将ナイト」も女性のファンが多かったですよね。2017年に木村九段の昇段パーティーがあったんですが、そのときに女性ファンがすごく多くてびっくりしたんですよ。ここ最近、女性の木村ファンがすごく増えていますよね。

深浦 自分も福岡で行われた王位戦の3局目で立会いをしたんですが、前夜祭で両対局者にひとこと挨拶する列を見ていたら、女性ファンの列は豊島さんより木村さんの方が長くて驚きました。