熱い票が入った木村王位誕生の棋譜コメント
――では、最後に「将棋連盟ライブ中継」の棋譜コメントです。局面を見てもよくわからないことが多い観る将にとっては、中継を見る大きな楽しみになっています。
深浦 我々、モバイルに携わっている者にはありがたい話ですね。
――他のアンケート項目にくらべると、さすがに回答数は少ないですが、一つひとつの内容が濃かったです。「名局賞」にも選ばれた、木村王位が誕生した王位戦第7局の棋譜コメントには熱い票が入っていました。
〈該当コメントは情景描写が素晴らしい。目を閉じると、木村九段の万感の思いや周囲の感動が伝わってくる。席を立って部屋を出る足音。検討が終わって静まる控室。終局に向かってざわつく報道陣。そして、客観的事実を示す「木村の初タイトルが近づいている」という流れにいまも目頭が熱くなる。
「木村は着手後、席を立った。▲4五銀は△3八金▲同金△同角成▲同玉△4七金以下、先手玉は詰む。控室では検討は打ち切られており、静かに進行を見守っている。関係者は終局に備えはじめた。木村の初タイトルが近づいている」〉(43歳/男性) ※104手目、玉響記者
――ライブ中継を担当する記者の方は、何人いらっしゃいますか?
深浦 東京、大阪で、合わせて15人くらいですかね。
ファンを多く持つ潤記者
――記者によって個性が出てくるところが面白いですね。
遠山 みなさんの投票を見ると、潤記者が担当したものが多いですね。この藤井聡太七段と高野秀行六段の順位戦(2020年2月4日)の「29」という数字に着目したコメントも潤記者ですね。
〈33手目、先手藤井七段▲2九飛に対する棋譜コメント。
《これが順位戦通算29戦目となる藤井。藤井ファンのみならず、将棋ファンなら29という数字には聞き覚えのあることだろう》
2九の指し手とのシンクロが素晴らしい。29は藤井ファンにとっては特別意味のある数字。読んだ瞬間シンクロに気づき感動したから〉(53歳/女性)
――「突然クイズが始まって楽しかったです」(49歳/女性)というのもあります。こんな棋譜コメントですね。
《船江は藤井との対戦が2戦目だが、藤井が2戦以上対戦する相手としては船江が50人目となる。また初手合いで藤井に敗れたあとに2戦目で勝ったのは、これまで39人中2人しかいない。ではここで問題。その2人の棋士は誰か。解答は30手目に掲載する》※2019年12月3日、C級1組順位戦 船江恒平六段―藤井聡太七段戦の21手目(答えが気になる方は、ぜひ棋譜コメントをご覧ください)
遠山 これも潤記者ですね。他の記者が書かないコメントが少なくないので、ファンも多いと聞きます。
「宇宙遊泳から地球に帰ってきた」
――同じ対局では《本局では攻め将棋の船江の矛が、沈着冷静な受けを持ち合わせる藤井の盾を突き破るかという点にも注目したい》という棋譜コメにも票が入っていました。
深浦 自分と豊島さんの朝日杯オープンの将棋を担当してくれた銀杏記者が、面白い表現を使っていたんですよ。対局で豊島さんの玉が、中段あたりから戻ってきたんですが、それを《宇宙遊泳から地球に帰ってくる》(172手目)と(笑)。あの秒読みのなか、そんなことを書けるのはすごいなぁと。
遠山 いつか使おうと思っていたんですよ、きっと。
――わはは(笑)。
遠山 深浦さんが「地球代表」だから、こういう表現にしたんですかね。