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《深浦は平然と指し、泰然と部屋を出ていった》

――銀杏記者は、ずっと保留していた桂馬の跳ねを決行したとき《ヒーローは遅れてやってくるもの》(2020年2月20日、大阪王将杯王将戦七番勝負第4局 渡辺明王将ー広瀬章人八段戦の63手目)と書いておられて上手いなと思いました。

遠山 銀杏記者は、いいところに味のある表現を入れてくるんですよね。棋譜コメントは、即興じゃないですか。たくさんのコメントを書いてエンジンがかかって、そんなときに出てくるアドリブが面白いんですよね。

――《深浦は平然と指し、泰然と部屋を出ていった》(2020年1月9日、竜王戦2組ランキング戦 佐々木勇気七段ー深浦康市九段戦の72手目。牛蒡記者)というコメントに投票されている方がいますが、深浦先生ご自身は泰然とした感じは覚えておられますか?

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深浦 いやぁ、全然覚えていません。

――自分の対局は、家に戻ってから、改めてモバイル中継を見るということはありますか?

深浦 それはあります。こういう形勢判断をしていたのかと思ったりするのは、けっこう大事な作業です。

 

――他にも棋譜コメウォッチャーからたくさんの推薦が届いています。すべて紹介したいぐらいですが……。

〈「折田さんのうめき声がスピーカーから聞こえてきた。まさに人生を懸けた寄せである」の一言に読んでいてしびれました〉(37歳/男性) ※2020年2月25日、棋士編入試験五番勝負第4局 折田翔吾アマー本田奎五段戦の103手目。琵琶記者

〈「久保陣を見よ、遊び駒がない。スレスレの駒運びを成立させる、『さばきのアーティスト』の美しい指し回しが光る」

 中継記者の方の静かな興奮が伝わってきて痺れました。久保九段の素晴らしさが簡潔に表現された名棋譜コメだと思います〉(29歳/女性) ※2020年1月7日、竜王戦1組ランキング戦 屋敷伸之九段ー久保利明九段戦の68手目。紋蛇記者

 

〈「少し前から目を閉じてうつむいていた木村がつと顔を上げ、そのまま無駄のないモーションで5四に飛車を回る」

 まるで映像を見ているかのように対局室の風景を想像出来る描写と、「つと顔を上げ」という日本語の美しさが好きです〉(35歳/女性) ※2019年6月6日、王位戦挑戦者決定戦 羽生善治九段ー木村一基九段戦の32手目。睡蓮記者

「突然始まったクイズ」の潤記者が大賞受賞

――では、大賞を選びたいと思うのですが、やはりファンから支持も多い潤記者のものから選ぶのがいいですかね。

深浦 クイズは面白かったですよ。

遠山 クイズよかったですね。これにしましょう。これからも棋譜中継のコメントにも注目してもらえたらと思います。

 

受賞の言葉(潤記者):

〈いやー、最高にうれしいですが、自分でいいのでしょうか。今回、ファンの方からの推薦であることがとてもうれしく、さらに深浦先生や遠山先生、編集部の審査も受けてとのことで、喜びもひとしおです。

 私の場合、棋譜コメントは想像を楽しめる描写を心がけており、また2019年度は興味深そうなデータを取り上げることを意識しまして、それらが受賞に繋がったのかなと思います。今後も様々な楽しみのある中継がお届けできるよう、創意工夫を凝らしますね〉

来年度の開催もご期待ください

 すべての審査を終えた後、深浦先生、遠山先生とともに、軽い打ち上げに出かけた。酒席の最中、そのとき行われていた永瀬拓矢二冠と佐々木大地五段の将棋が持将棋になって指し直しとなったことがわかった。

「最近、内容が悪いんですよね」と佐々木五段の将棋を心配されていた深浦先生だったが、お弟子さんの将棋が熱戦の末に持将棋となるのは決して悪くないようで、目を細めてビールを飲んでおられたのが印象的だった――。

 

 熱い想いの込もったアンケートを見て、座談会をして、打ち上げをする。私たちにとっても素敵な時間だったが、読者のみなさまにとっても、これを読む時間がよきものであれば嬉しく思います。また来年度も「観る将アワード」が開催されることを期待していただき、これからも印象深いシーンをご記憶くださいませ。

写真=松本輝一/文藝春秋

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