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「ウイルスを持って帰ってくるな」イギリスでは医療スタッフへ差別的な“虐待”が起きた

一方、毎週木曜には「Clap for Carers」運動が

2020/04/10
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「私たちはウイルスの前に跪かされている」

 英イングランド東部エセックス州にあるバジルドン大学病院の手術室に勤務する看護師シャーリー・ワッツさんは4月3日、フェイスブックに動画を投稿し、「私たちはウイルスの前に跪かされている。状況は絶望的でスタッフが不足している」と涙ながらに訴えた。

「何が起きているのか現実に目を見開いてほしい。この戦いに負けつつあるように感じる。私たち全員が希望を持ち、できることをしようとしていないからだ」

「疲れ果て涙を流し、落ち込んでいる。しかし、まだ心は折れてはいない。どうか家にいて。感染が広がらなければ、私たちにかかる圧力は取り除かれる」

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セント・トーマス病院で働く医療スタッフ  ©ロイター/AFLO

 すでに英国では、軽症者は自宅療養だ。病院で治療を受けられるのは重症・重篤化してからだ。王族であっても政治家であっても特別扱いは許されない。それは病院に搬送され、ICUで酸素吸入を受けているボリス・ジョンソン首相を見れば、ご理解いただけるだろう。

ジョンソン首相が入院しているセント・トーマス病院 ©木村正人

 ゴーグルかシールド、N95マスク、防護服、手袋を着用していても20センチメートルの至近距離で患者に濃厚接触する医師や看護師の感染率は極めて高い。しかもウイルスの曝露量が多いので重症化しやすく、犠牲者が後を絶たない。

亡くなった看護師の母親は「息子は適切なマスクを着けていなかった」

 英ワトフォード総合病院の看護師ジョン・アラゴス氏は、23歳の若さで4月4日急死した。英大衆日曜紙メール・オン・サンデーによると、12時間シフトの最中にアラゴス氏は頭痛と高熱に悩まされていたにもかかわらず、スタッフ不足のため早退できなかった。

©AFP/アフロ

 帰宅するなり自室のベッドで意識を失い、そのまま青ざめて冷たくなった。アラゴス氏に基礎疾患はなく、新型コロナウイルスの患者を懸命に看護していたという。母親は「息子は適切なマスクを着けていなかった」と訴えている。

 英国では医師8人とアラゴス氏ら看護師・スタッフ7人が死亡している。しかし英国にはまだ準備する時間があった。